米国とタリバーンが和平協定を結んだ。事実上、米国の「敗戦」だ。和平協定は“当事者”を欠く異様なものだったが、これにはトランプ大統領の事情もある様子。AERA 2020年3月16日号では米軍事ジャーナリストの田岡俊次氏が、米兵撤退の裏側に迫った。
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2月29日、米国はカタールの首都ドーハでタリバーンとの和平協定に署名した。135日以内にアフガニスタン駐留米軍を現在の1万3千人から8600人に減らし、「アフガニスタンをテロリストの拠点にさせない」などの条件を満たせば、14カ月以内に完全撤兵するという内容だ。
アフガニスタン人の強さは驚異的だ。1979年12月にソ連軍が侵攻、占領したが、約9年間のゲリラ戦で疲弊したソ連軍は88年5月から撤退した。米軍は2001年10月にアフガニスタンを攻撃、当時のタリバーン政権を打倒したが、タリバーンは18年余も抗戦を続けて勢力を拡大。最終的に米軍を撤退に追い込んだのだ。
和平協定で注目すべきなのは最重要であるはずの当事者、アフガニスタン政府が排除され、米国とタリバーンの2者の合意であることだ。優位に立つタリバーンは「現在のアフガニスタン政府は傀儡(かいらい=あやつり人形)政権にすぎない」として交渉に参加させることを拒否、和平を急ぐ米国はそれをのんだのだ。
米国はかつてはタリバーンを土着のテロ集団のように蔑視し、「テロは絶対悪」と唱えていた。だが現在ではタリバーンを事実上の政権同然に扱い、逆に米国が擁立し支えてきたアフガニスタン政府を排除した。アフガニスタンのアシュラフ・ガニ大統領が3月1日の記者会見で合意を「密室での署名」と非難したのも当然だ。
11月の選挙での再選を第1の目標とするトランプ米大統領にとっては「米国史上最長の戦争を終結に導いた」との実績を国民に示すためには、アフガニスタン政府の存亡に構ってはおれないのだろう。しかしその「実績」とは「タリバーンの勝利、米国の敗北」を認めることだから皮肉だ。