例えば、2001年の同時多発テロ事件後では、米国では多くの人たちが飛行機を避けて自動車に乗る傾向が強くなった。結果、自動車による交通事故死が増えたと言われている。

 新型コロナウイルスの場合は、どうだろうか。

 必要以上にヒトやモノの移動に制限をかければ、経済活動が停滞し、企業の倒産が増える恐れがある。あるいは、差別や偏見の対象となった医療従事者や支援者はそれによって孤立し、ウイルスの感染ではなく、精神的な変調によって追い込まれる可能性がある。

 実際に起き始めていることもある。群馬県前橋市の赤城病院で院長を務める関口秀文医師(38)によると、クルーズ船が停泊していた横浜港では、病院の名前をテープで隠して救急車を出動させていたケースがあったという。風評を心配して医療スタッフがそこまで人の目を気にしなければいけないのが現実だ。仮に市民が過度な心配から病院名をSNSなどでさらし続けると、「医療従事者が支援に関わることができなくなる」(前田教授)というリスクを招きかねない。

 自分の中にある不安や恐怖の存在を認めつつ、どのような心がけが必要なのか。

「感染そのものよりも傷つけられることがあるため、差別や偏見については、感染リスクと同様に敏感になってほしい」(同)

 感染は拡大し、世界はパンデミックの入り口に立たされている。いつ誰が感染してもおかしくない状況だ。こうむる必要のない偏見や風評による被害は、避けなければならない。(編集部・小田健司)

AERA 2020年3月9日号より抜粋