浜矩子「中央銀行通貨電子化をめぐる大騒ぎは中国に先を越された焦りの表れだ」 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

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浜矩子「中央銀行通貨電子化をめぐる大騒ぎは中国に先を越された焦りの表れだ」

連載「eyes 浜矩子」

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浜矩子AERA#浜矩子
浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演

浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演

※写真はイメージ(gettyimages)

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 経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。

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 中央銀行通貨の電子化。この話題がメディアを賑わしている。紙幣や硬貨はもう発行しない。紙や金属を使った物理的な現金は消える。その代わりに、電子暗号化された現金がネット空間の中を飛び交うことになる。するとどうなるか。

 このテーマについて、世界の中銀6行と国際決済銀行(BIS)が共同研究に踏み切った。中銀6行は、日銀、欧州中銀(ECB)、カナダ銀行、イングランド銀行、スウェーデンのリクスバンク、スイス国立銀行である。アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)も、単独で研究を進める意向を表明した。中国人民銀行は、すでにデジタル人民元の発行準備を進めている。

 このにわかデジタル中銀通貨騒動をどうみるか。もっとも、この話、実はさほどにわかでもない。一昨年辺りから、BISが音頭を取る形で多面的研究が重ねられてきてはいたのである。確か、本欄でも取り上げたことがあったはずだ。ただ、これまでは、かなりマニアックな領域に止まる思考実験の観があった。

 それが、ここに来てトップニュースに躍り出ているのは、どうも中銀たちの焦りの表れのようにみえる。焦りの要因は二つある。その一が前出の中国の動きだ。デジタル人民元の導入に向けて、中国がスタートダッシュ体制に入ってしまった。この衝撃はそれなりに大きいだろう。

 その二が、巨大IT企業のフェイスブックによる「リブラ」なる電子通貨の発行宣言だ。全くの一民間企業が、国境をまたぐ広大な電子決済網を形成してしまうかもしれない。そうなると、通貨と金融の世界に対して、中央銀行たちは制御力を失うことになる。これはいかんというので、中銀たちも突っ走り始めたというわけだ。

 筆者は現金のオール電子化には大いに懐疑的だ。通貨と金融の世界は、やはり、人間の目に見える領域にとどめておくべきだと思う。今の騒ぎをみていて、シェークスピア大先生の筆になる次の一節を思い出した。「間抜けが語る物語。響きと怒りに満ちてはいるが、何の意味もありはしない」(『マクベス』5幕5場。翻訳筆者)。目下の現金電子化騒動には、こんな具合の空騒ぎに終わってほしい。

AERA 2020年2月17日号


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浜矩子

浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演

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