細胞内に普通の状態ではありえない+鎖RNAとー鎖RNAの二本鎖構造が形成されるので、これを異常とみなす自然免疫システム(つまり、宿主の防衛メカニズム)が作動し、ウイルスRNAを分解して除去しようとする。またウイルス自体は宿主にとって異物タンパク質なので、これまた免疫システムの警戒網にひっかかり、抗体による攻撃やリンパ細胞による捕食によって退治される。これが速やかに進行すると、宿主の健康には特別な症状はでない。出たとしても軽症で終わる。なので、ウイルス対策の一丁目一番地は、自分自身の免疫システムの保全ということになる。

 逆に免疫システムが弱っていたり、その調整がうまくいかなかったりすると、重症化する危険性がある。もともと何らかの疾患があったり、高齢者にリスクがあったりするのはそのためだ。

 免疫システムの大敵はストレスである。ストレス時に分泌されるステロイドホルモンは身体を緊張させ、戦いや逃走に備えるが、逆にその際、免疫系は抑制されてしまうのである。

 次回は、ウイルス感染を検出するために使われている診断法リアルタイムPCR技術について考えてみたい。(文/福岡伸一)

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福岡伸一

福岡伸一

福岡伸一(ふくおか・しんいち)/生物学者。青山学院大学教授、米国ロックフェラー大学客員教授。1959年東京都生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部研究員、京都大学助教授を経て現職。著書『生物と無生物のあいだ』はサントリー学芸賞を受賞。『動的平衡』『ナチュラリスト―生命を愛でる人―』『フェルメール 隠された次元』、訳書『ドリトル先生航海記』ほか。

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