取材許可まで6年、撮影に2年をかけ完成させた坂上監督は、「ライファーズ 終身刑を超えて」(04年)など米国の受刑者の取材を続けてきた。同監督によると、映画を観た多くの人が「私もあんな場所が欲しい」と吐露するそうだ。

「私たち日本人は小さいときから、何か悪さをすると理由も聞かれず、すぐに謝りなさい、と言われて育ちました。悪いと思っていなくても頭を下げなくてはいけない。そこに至るまでに何があったのかを考えていくことが大事なのに、そこをすっ飛ばしている」(坂上監督)

 島根あさひでも、TCプログラム以外の時間は通常の刑務所同様に厳しく管理されている。怒鳴るような声で番号で呼ばれ、何をするにも体を折り曲げ礼をする受刑者の姿をカメラは映す。それなのに、試写を観た小中学生の子どもを育てる母親たちは「うちの子の学校と同じだわ。(管理の厳しさは)学校のほうがすごいかも」と話す。

 たとえば、「黙掃・黙食」というルールを敷く小学校がある。黙って掃除する。給食は黙って食べる。姿勢を正せた班から食べていいが、ひとりでも動いたら食べられない。学校や社会全体に閉塞(へいそく)感が充満していると言われるゆえんだろう。

「そういった社会のあり方を、刑務所の中にいる人たちを通して考えてほしい。いじめやブラック企業の問題など、人と人の関係のあり方が変われば解決できることだと思う。人と人が語り合うことで、問題を明らかにしながら解決へと向かっていける」と坂上監督は訴える。

 愛情あふれる刑務官も存在する。受刑者の出所日が休みと重なった時、「頑張れよ」と見送りに来る人もいるそうだ。

 人間の可能性を創造する。その鍵が見つかる作品だ。(ライター・島沢優子)

AERA 2020年1月27日号