お互いに受け身をしっかり取りながらそれぞれの得意技を繰り出し、あっという間に2人の身体には汗が迸る。打撃を受けた身体のあちこちがミミズ腫れのようになった。それでも2人は闘うことをやめない。フラフラになりながらも、3カウントを取られる直前に肩を上げ、再び立ち上がるのだ。その度に観客が熱狂。

 試合を見ながらかつてオカダが語っていたことを思い出した。

「相手に攻められ、疲れや痛みで朦朧となりながらも、お客さんの様子を捉える意識だけはクリアにしておきます。会場が何を求めているのか、どんな技を見たいと思っているのか、お客さんの反応を瞬間的に判断し期待に応えます。また、敢えて期待の逆を行き、観客の感情を煽るような手法を使うこともあります」

 リング上の激しい肉弾戦中に、そんな冷静な判断が出来るのかとその時は理解できなかったが、オカダの試合を見ているうちに、おぼろげながら理解できた。オカダ対SANADAの試合には、激しく身体をぶつけ合いながらも、そこはかとなく感じる余白があった。その余白に観客がそれぞれの色を塗り、その色彩の変化を見ながらまた新たな技で闘うという、心と身体を高い次元で操るプロレスラーの真髄を見た気がしたのだ。

 オカダはギブアップ寸前に追い詰められながらも、SANADAののど元に右腕を叩き込む得意技のレインメーカーで倒しカウントを取った。

 この試合でIWGPヘビー級王座のベルトを守ったオカダは、棚橋弘至(43)の持つ最多通算防衛28を超え、29に記録更新。

 プロレスが変わった。一昔前は遺恨や確執、流血というイメージがあり、女性や子どもには近寄りがたい場所だったが、今やプロレス界は筋骨隆々のイケメン選手が顔を揃え、競技性の高い総合エンターテインメントになった。「プ女子」と形容されるプロレス好き女子が急速に増え、家族連れも多くなった。新日本プロレスが主催する年間約150試合のチケットの95%は完売で、首都圏の興行はほとんどチケットが手に入らない状況という。

 その立役者の一人がオカダだった。

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