ショートの演技を終え、歓声にこたえた。ショート後には、「シーズンベストじゃなかった。もっと頑張らなきゃ」と向上心を見せた (c)朝日新聞社
ショートの演技を終え、歓声にこたえた。ショート後には、「シーズンベストじゃなかった。もっと頑張らなきゃ」と向上心を見せた (c)朝日新聞社

 圧倒的な演技を見せて羽生結弦NHK杯を制した。ショートでもフリーでも、万全ではなくても修正力を発揮した。AERA 2019年12月9日号では、そんな彼の調整の「引き出し」に迫った。

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 羽生結弦(24)がシニアに参戦して、10シーズン目になる。その間、ソチ、平昌と2度の冬季五輪で金メダルに輝くなど、多くの歓喜があった。左足甲や右足首のけがなど、多くの試練もあった。

 その結果、数え切れないほどの「経験」を積んだ。ジャンプの状態がいまいち良くなかったとき、マイナス思考に陥りそうになったとき、どう対処するか。羽生の頭のなかに、「引き出し」は無数にある。

 羽生にとって、6度目の出場となったフィギュアグランプリ(GP)シリーズNHK杯。ショートプログラムがあった11月22日、午前中の公式練習でショートの冒頭に入れる4回転サルコーで手をつくなど、ジャンプの感触が少し悪かった。すると、練習の最後に懐かしい動きをした。うつむいた姿勢から、首をくるりと回して柔らかに弧を描いて滑り始める。2014-15年、15-16年、そして17-18年シーズンと通算3季のショートで使用した「バラード第1番」の滑り出しだ。

「はい、『バラ1』やりました。(現在のショートである)『オトナル』のサルコーとトーループが、ちょっとマンネリ化っていうか、自分の中でやりすぎちゃうと本番で使えなくなるなってちょっと思ったんで。いいイメージがある『バラ1』のサルコーと4回転─3回転(の連続ジャンプ)をやって、感覚よく終わろうと思っていました」

「バラード第1番」は栄光のプログラムだ。15-16年シーズンの長野であったNHK杯では、ソチ冬季五輪で自身が記録した101.45点の世界最高得点を更新する106.33点をマーク。フリー「SEIMEI」での史上初となる200点超えへとつなげ、トータルスコアで300点超えを達成した初の男子選手となった。平昌冬季五輪でも演じ、五輪連覇を果たした。

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