現在、東京・東銀座の東劇で公開されているのは10月12日にMETで上演された「トゥーランドット」。中国が舞台の、求婚者に謎をかけ解けないと処刑する残酷な皇女に恋した王子の物語。イタリアオペラの巨匠ジャコモ・プッチーニが最後に書き、未完で終わった究極のオペラだ。オペラを知らない人も、トリノ五輪のフィギュアスケートで荒川静香さんが採用した曲と言えば、思い当たるのでは。

 毎年METで上演されるいわば“定番”で、1987年以来続く演出は今年6月に亡くなった名匠フランコ・ゼフィレッリが手掛けた。歌唱、舞台芸術、衣装、全てにおいてまばゆいほどゴージャスな世界は、「壮大な演出で知られるゼフィレッリがぴったり。彼以外のプロダクションは想像できません」。

 今回ネゼ=セガン氏が音楽監督に就任し、初めてMETでこの曲を指揮するにあたり、「作品を一から見直した」と言う。

「今までついた癖を取り除いた。オーケストラやコーラスにとって、『この曲にリフレッシュして向かえる』と、すごくうれしかったらしいんです。この『トゥーランドット』には、みんなが『我々が生まれ変わった、ということを世界中に見せてやろう』という気持ちで向かいました」

 今シーズンは来年6月まで、「蝶々夫人」「トスカ」など定番人気演目から、MET初演となる「アクナーテン」や新演出の「ポーギーとベス」など現代オペラまで全10作を上映予定だ。

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2019年12月2日号