ジャックさんは、もともとはシンガポールの貧しい村の出身だ。集落で使われていたのは汲み取り式の共同トイレだった。教科書が買えず、勉強ができない時期もあった(写真:Bai Lin)
ジャックさんは、もともとはシンガポールの貧しい村の出身だ。集落で使われていたのは汲み取り式の共同トイレだった。教科書が買えず、勉強ができない時期もあった(写真:Bai Lin)
中国・洛陽市の中学校では2017年まで壁がない「ニーハオトイレ」が使われていた(写真:Bai Lin)
中国・洛陽市の中学校では2017年まで壁がない「ニーハオトイレ」が使われていた(写真:Bai Lin)
WTOが湖南省の学校に設置した個室の水洗トイレ(写真:Bai Lin)
WTOが湖南省の学校に設置した個室の水洗トイレ(写真:Bai Lin)

 トイレ問題に取り組む社会起業家がいる。世界には清潔なトイレがないために命を落とす子どもも少なくない。タブー視されがちなトイレ問題を、ユーモアを交えて伝えるジャック・シムさんが現状を訴える。AERA 2019年11月25日号に掲載された記事を紹介する。

【写真】中国・洛陽市の中学校では壁がない「ニーハオトイレ」が使われていた

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「私こそがトイレ問題のスポークスマン!」

 そう話すのは、「ミスター・トイレ」こと、社会起業家のジャック・シムさん(62)。下ネタだからと敬遠せず、大真面目に「大」問題に取り組む。10月末、『トイレは世界を救う』の出版を機にシンガポールから来日した。

 ジャックさんの働きかけにより、国連の全会一致で11月19日を「世界トイレデー」と制定したのが2013年。翌年にはインドのモディ首相が「1.2億個のトイレを作る」と宣言。近年は中国の習近平(シーチンピン)主席も「トイレ革命を起こす」と公言している。

 そもそも、トイレは人々の話題にのぼらない「タブー感」が問題だという。タブーを払拭する手法としてジャックさんが重視しているのが、ユーモアだ。何と言っても、彼が01年にシンガポールに創設した組織の名前が「WTO(世界トイレ機関)」。今や58カ国にまたがる235もの団体やメンバーと協力関係にある。「本家本元の『WTO(世界貿易機関)』から提訴されなくてよかった」と笑う。

「このネーミングこそが最大の『笑い大作戦』。ゲリラ戦略とも言える。人々を笑わせると同時に、人々の関心も引くことが出来るのだから」

 私たちは1日6~8回、年間にして2500回もトイレの世話になっている。トータルで人生の3年間はトイレにいる計算だ。だが現在、世界人口の15%にあたる10億人が屋外で排泄している実情がある。清潔なトイレと水がないため、WHO(世界保健機関)によると毎年、5歳未満の子どものうち52万5千人が下痢症で亡くなっている。毎日1400人以上が命を落としている現実は、重い。

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