スコットランド戦当日の朝から、芝にたまった水をスポンジで吸い取り、台風対策で一時取り外されたLED看板を設置し直すスタッフたち(写真/ラグビーワールドカップ2019組織委員会提供)
スコットランド戦当日の朝から、芝にたまった水をスポンジで吸い取り、台風対策で一時取り外されたLED看板を設置し直すスタッフたち(写真/ラグビーワールドカップ2019組織委員会提供)
釜石鵜住居復興スタジアムで予定されていたナミビア対カナダ戦が台風19号により中止となった。試合が行われるはずだった13日、カナダ代表の選手らはボランティアを申し出て復旧作業を手伝った
釜石鵜住居復興スタジアムで予定されていたナミビア対カナダ戦が台風19号により中止となった。試合が行われるはずだった13日、カナダ代表の選手らはボランティアを申し出て復旧作業を手伝った

 8強入りの大躍進を遂げ、国内だけでなく海外からも注目を浴びたラグビー日本代表。南ア戦につないだその陰には大勢の人の尽力と、その思いに応えようとした選手たちの姿があった。

【写真】釜石で試合中止のカナダ選手らが泥かきなどのボランティア

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 スコットランド戦(13日)で激闘を制し、ラグビーワールドカップ(W杯)初の8強入りに国中が歓喜に沸くなか、リーチマイケル主将(31)は試合直後に神妙な面持ちで語った。

「今日の試合は私たちだけのための試合ではない。苦しんでいる人のものでもあると思った。この試合を実現させるために床をきれいに拭いてくれたり、(水たまりを)スポンジで吸い取ってくれたりした。たくさんの方が努力してくれたのもわかっていた。試合ができたことに本当に感謝している」

 激闘の舞台となった横浜国際総合競技場(日産スタジアム)は、台風による豪雨で周囲には池のような光景が広がっていた。勝利の陰には開催に向けた大勢の人々の尽力があり、選手たちはそれを力に変えた。まさに、日本代表が掲げる「ONE TEAM(ワンチーム)」の勝利だった。

 横浜国際総合競技場と周辺の公園は、隣接する鶴見川の氾濫を防ぐために貯水する「多目的遊水地」。国土交通省が運営する防災ポータルページのデータによると、スタジアム近くの亀の子橋観測所の水位は日頃は1メートル以下だが、12日朝から上昇を始め、午前8時台には5メートルを超えた。午前8時50分に鶴見川の水の遊水地への流入が始まり、スタジアム1階の駐車場部分も浸水した。その後もどんどん強くなる風雨。水位は午後4時すぎには6メートル58センチにまで上昇。同省京浜河川事務所の推定では、遊水地がなければ水位があと0・3メートル上昇し、氾濫危険水位(6メートル80センチ)も超えたという。遊水地が水を引き込んで氾濫を食い止め、まちを守った。

■朝4時すぎに始動

 スタジアムに待機していたラグビーワールドカップ2019組織委員会横浜会場イベント・デリバリーマネージャーの河合洋一さん(42)は、風が弱まった12日夜10時半頃、明かりをつけて場内を点検した。周囲の浸水はまだ収まっていないが、スタジアムはこうした事態を想定して、高床式で建てられていて、フィールドやスタンドへの浸水はなく、スタジアム内部に大きな被害は見られなかった。

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朝4時から準備開始