■釜石でいつかナミビア対カナダ戦を

 釜石は、スタジアム内は問題なかったが、周辺でがけ崩れが起きるなど観客の安全が確保できないとして中止になった。

 釜石市は、東日本大震災による津波で1千人を超える死者・行方不明者が出た。W杯の釜石開催が決まった15年には、まだスタジアムもなく、鉄道も道路も復旧していなかったが、津波で全壊した小中学校の跡地に「鵜住居復興スタジアム」を建設。W杯では2試合が組まれ、数年かけて準備してきたが、1試合しか開催できなかった。だが、試合が中止となった後、カナダ代表の選手たちは自ら申し出て、釜石市内で道路にたまった泥かきや浸水で汚れた家具の搬出を手伝った。対戦国のナミビア代表選手らは、公認キャンプ地の宮古市を急遽訪問し、災害対応に当たる市職員を激励し、子どもたちと交流した。

 釜石市ラグビーワールドカップ2019推進本部事務局のスタッフは言う。

「大勢の人が楽しみにしていた試合ができなくなったことはとても残念ですが、命の安全が何よりも大事ですし、このスタジアムはそのメッセージを伝える場所としてできたものですから。W杯では震災のときに支援してくれた世界中の人に感謝を伝えたいと思っていましたが、選手たちが復旧作業を支援してくれて、新たに恩ができました。またここから頑張っていかないと」

 地元の住民らからは、いつかナミビア対カナダ戦、そして日本代表とこの2チームとの試合を釜石で実現してほしいという声も上がり始めている。誰もが「不可能」と思ったW杯開催を実現させた釜石ならきっと、と期待してしまう。

『スポーツと震災復興』などの著書のある宇都宮大学の中村祐司教授は言う。

「災害とスポーツは関係が深く、過去にも震災など大きな被害があった際に選手たちが奮起し、その姿が多くの人に勇気を与えてきました。ただスポーツに力があるからこそ、こうした精神的な力だけでなく、実際の復興の支援にもつなげていくことも重要です」

(文/編集部・深澤友紀)

AERA 2019年10月28日号に加筆