「みんなで日本映画界をひっくり返しましょう!」

 カメ止めの次、という呪文を叩き潰すかのような強い声。果たして上田はプレッシャー地獄から、どう脱出したのか?

 もし上田の自伝映画を撮るなら、最初のシーンは美容師夫婦の父・貞行(57)と母・さゆり(57)が結婚し、滋賀県長浜市に美容院を開業する場面だろう。上田は33歳と26歳の弟との3人兄弟の長男。両親が共働きだったため、面倒を見てくれた祖父母大好きっ子となり、祖父母の住む離れの家の2階を自室にしていた。

 小学校時代はサッカー少年だったが、駅前の小さなビデオ屋で借りた「アルマゲドン」や「タイタニック」に夢中に。中学では作家性強めのハリウッド映画やB級映画に移行し、「パルプ・フィクション」や「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」「グッドフェローズ」と浴びるように見て、映画監督を夢見るようになる。

「最年少でアカデミー賞の作品賞をとる」と豪語しつつ、お笑い芸人にも本気でなりたかったという中学時代、上田は同級生8人を集め、チーム「ロックハウンド」を結成した。チーム名は「アルマゲドン」でスティーブ・ブシェミ演じる女たらしの地質学者の役名から。

 ファミレスもマックもなく、たまり場といえばスーパーのゲームセンターとパン屋だけという小さな町で、メンバーは夜な夜な家の窓から抜け出して上田の部屋に集合し、朝方までコントをやったり、上田の父のハンディカムで映画を撮ったりした。カメ止めやスペアクの音楽を担当する幼なじみ、鈴木伸宏(34)もメンバーだ。

 当時、中学校にはロックハウンド以外に、別の最強チームが存在していた。最初は2トップとして仲が良かったが、やがて上田と、そのチームのリーダーが好きな女の子を巡って三角関係に。

「学校中に『上田とはしゃべるな。しゃべったヤツはハブる』とおふれが回された。ある日、そのチームのたまり場で、彼女の前で殴られたり蹴られたり。素足で逃げ出して河原で泣いてたら、彼女が追いかけてきて一緒に泣いてくれて。だけど結局は、チームのために彼女と別れた」

 学園青春ムービーそのままだった学校生活では、お笑いにも夢中で、授業中はみんなを笑わせることに命をかけていた。
 
 高校生になると、嵐を呼ぶ巻き込み力がパワーアップする。
 
 2年の夏、嫌がる仲間をひきずって手作りイカダでの琵琶湖横断に乗り出したが、夜の大波で遭難し、ヘリコプターとパトカーが出動する騒動に。「仲間たちは水がトラウマになって1週間、風呂にも入れなかった」(鈴木)が、上田はブログに「あー、楽しかった。次は何やろうかな」。

(文/速水由紀子)

※記事の続きは「AERA 2019年10月21日号」でご覧いただけます。