社会の理解も進んでいない。産後の保健師による全戸訪問は赤ちゃんがいないため受けられず、一昨年度から始まった産婦健診での産後うつ病検査も、流産や死産だと行われないケースも多く、ケアが必要とされる天使ママたちが支援からすり抜けてしまっているのが現実だ。悲嘆が複雑化して、社会に適応できなくなる人や精神疾患を抱える人、命にかかわる心臓疾患などを発病する人、中には自死してしまう人もいる。こうしたことを防ぐ予防的介入のためにもグリーフケアが必要とされる。

「心身のケアが必要でも、本当に苦しい時ほど助けてという声を上げられないし、『赤ちゃんが亡くなったのに自分だけ助けてとは言えない』と、一人で苦しんでいる天使ママは少なくありません」(小原さん)

 小原さんは死産から4カ月後、片道2時間近くかけて同じ経験をした人たちの集まりに初めて参加した。生きる意欲を失いながらも、わらをもすがるように集まりに参加し、赤ちゃんへの想いや苦しい気持ちを表出し、参加者と共有する中で、悲しみを受け止められるようになっていった。自分の言葉で気持ちを語り、それを自分の耳で聴くことも、気持ちを整理していく過程で大切だった。

 神戸市内でも同じ経験をした天使ママが気持ちを吐き出せる場所をつくりたいと、死産から1年後に自助グループ「エンジェライト」を立ち上げた。ナード・アロマテラピー協会認定のアロマアドバイザーの資格を生かし、お話会の際にグリーフケアに適したアロマオイルづくりのワークショップなども企画。さらに看護師の卵や医療関係者に向けて、死産の体験や天使ママへの支援の必要性なども伝えてきた。

「何かしていないと壊れてしまいそうで。地上で子どものお世話ができない分、息子の母としてできることをすることで、生きる意味を探そうとしていたのかもしれません」

 小原さんのそうした活動を伝える新聞記事を読み、「目指す想いが一緒だ」と連絡を取ったのが横浜市に住む菅美紀さん(43)だ。原因不明の不育症で流産を繰り返し、4人の我が子を亡くした。流産は珍しいことではないと軽視されることも多く、なかなか悲しい気持ちを吐き出せなかった。流産はお骨も残らず、お墓もない。どこに我が子への想いを馳せたらいいのわからず、ビーズで小さな天使の人形を作り始めた。流産した友人たちから「作ってほしい」と依頼を受けたことをきっかけに、自分と同じようにやり場のない想いを抱く天使ママが安心して話せる場所をつくろうと「ANGEL’s HEART」を立ち上げ、お話会や天使ママを癒すイベントを開催してきた。

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グリーフケアの必要性