歩道橋の表示は肝心の矢印が消えかかっていた(撮影/川村章子)
歩道橋の表示は肝心の矢印が消えかかっていた(撮影/川村章子)

 東京五輪開催まで1年を切ったが課題は山積みだ。暑さ対策が注目されているが、バリアフリー化の不十分さもその一つだ。当事者らが不安を募らせる。

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 障害者団体「DPI日本会議」事務局長の佐藤聡さん(52)は飲食店などの小規模店舗やホテルのバリアフリーが進んでいないことを危惧する。

「入れるお店や宿泊施設がなくて困る人が続出する」

 宿泊施設のバリアフリー化については、これまで国際パラリンピック委員会から何度も「十分なレベルではない」と指摘されてきた。国は改正バリアフリー法施行令を今年9月1日に施行。これまで50室以上の宿泊施設に「1室以上」だったバリアフリー対応客室の設置が「全客室の1%以上」と義務づけられた。ただ既存施設は対象外だ。東京都によると、東京五輪期間中に必要とされるバリアフリー対応客室は1日に最大850室と見込んでいるが、現時点で600室しかない。バリアフリー問題に詳しい東洋大学の高橋儀平名誉教授はこう指摘する。

「国や都なども改修費用の助成を始めているが、海外からの観光客が増えて稼働率が高まり、改修が間に合わないホテルも多い。海外では総客室の5%程度のバリアフリー化が標準であり、韓国は昨年の冬季五輪を機に基準を3%に引き上げた。誰もが泊まれる良質なバリアフリー客室の拡充は必須だ」

 北九州市に住む脳性まひの林芳江さん(56)は東京五輪の開会式のチケットに当選。パートナーの藤下貴将さん(43)がバリアフリー客室を予約するため約10軒のホテルに電話したが、見つからなかった。藤下さんは言う。

「開会式の朝、北九州を出て向かう予定ですが、電動車いすの充電の問題や、会場の新国立競技場近くで暑さをしのげる休憩スペースがあるかなどが気になっています。たとえホテルが見つかったとしても、午後11時頃開会式が終わり、約7万人の混雑の中で移動がどうなるのか。チケットが当たった嬉しさ以上に不安な気持ちが強いです」

(編集部・深澤友紀、ライター・川村章子)

AERA 2019年9月30日号より抜粋