けれども玉名ラーメンはそうした手法以上に、「何者が作ったかわからない作品が混在しているからこそ面白い」という感覚からYouTubeを利用しているのだという。

 今年2月に初めての4曲入りEP「空気」を配信とストリーミングで発表。CDのリリースはない。ただし、ライブ会場や一部のショップでは自作のZINE(ファンジン。写真や文章などを掲載した自主制作の冊子)に同じ内容のEPをつけた形で販売している。このZINEがまた彼女にとっては重要な表現手段だ。自ら撮影したスナップや手書きの文字(歌詞)が自由にレイアウトされたそのZINEをめくりながら、幻想的かつ抽象的な曲、ちょっと舌足らずだけど言葉がスッと耳に届く歌を聴いていると、「この歌、記憶にとどめておきたい」という感情が沸き起こってくる。

 彼女は言う。

「忘れたくない、という想いが他人より強い。忘れたくないから音にしているし言葉にしている。人間なので忘れちゃうんですけど、忘れちゃうのが怖いし悲しいから、絶対忘れたくない」

 その一方で、彼女は忘れてもいいもの、葬り去った方がいいものには毅然とした態度で臨む。鋳型にはめられることに対しては、徹底的に抗(あらが)う。

“らしさなんてうるせえ 投げかける常識へのquestion  未来 過去 そして今 自分の色自分で決める”(「own」から)

 iPhoneのメモ機能を使い、ふっと思いついた言葉や表現をササッと記録していく。そうして言葉の断片から発展していった彼女の歌詞は、過去の記憶と現在の景色とが見事なコントラストで描かれたものだ。人間の記憶は日々どうしたって薄れていく。脳細胞が生きている以上、どれほど鮮明な記憶であったとしても、新しくインプットされた情報が上書きしていってしまう。しかし、玉名ラーメンはそこに抗おうとして、忘れたくない思いを音に残していく。忘れたくないのに忘れていってしまう宿命に苛(さいな)まれながら、音に記憶させていくのだ。

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亡き祖父の声を逆再生して作った曲は