「送り出し機関に1万ドル(約110万円)を払って日本に行きました。お金は両親が土地の所有権を預けるなどして、工面してくれました。3年働いて両親にお金を返し、200万円貯金してベトナムに帰りました」

 お金はすべて投資した。ライチの苗や羊を買い、紙の需要が高まっていることから、4ヘクタールの山を買い、林業も始めた。さらなる投資をするため、また日本で働きたいと話す。

 クォアンハイ村で出会った大工によると、家を建てる費用は土地が30坪で200万円、レンガ造り2階建ての家が400万円。3年間の技能実習では土地まで買えないかもしれないが、頑張れば家は建つ。家が建たなくとも、クンさんのように貯金したお金でビジネスを始めることもできる。こうした夢があるからこそ、借金をしてでも日本を目指す若者が後を絶たないのだ。

 ベトナムの若者を引きつける日本での技能実習を日本人の金銭感覚に置き換えると、「参加費500万円。3年間、海外で単純労働に就けば1500万~2500万円の貯金ができる。ただし事前に半年間の外国語トレーニングを受けること」といったところ。老後の2千万円問題で揺れる日本で、もしこうした求人があれば、「3年間の我慢でそれだけ貯金ができるなら」と参加する人も多いだろう。

 先に旅立った先輩の姿を見て、残った若者たちが旅立つ。水を買いに入った雑貨店で、グェン・バ・フックさん(23)と出会った。今年10月から技能実習生として都内の建設会社で働くという。

「徴兵から帰ってきましたが、なかなか仕事はありません。給料の高い工業団地のサムスンの工場で働いても月700万ドン(約3万3千円)程度でしょう。日本で稼いで、妹が大学に進学する費用を出してあげたいです」

 一獲千金のチャンスが日本にある。だから若者たちは日本を目指す。

 ただ、そのチャンスがほかにあれば、日本である必要はない。いま、台湾や韓国などに加え、ドイツやルーマニアなどの欧州諸国もベトナム人労働者の獲得に動き出している。日本は「選ばれる国」であり続けられるだろうか。(ジャーナリスト・澤田晃宏)

AERA 2019年7月22日号より抜粋