水槽を泳ぐ小さな真鯛たち。いつか立派な寿司ネタに?(写真/筆者提供)
水槽を泳ぐ小さな真鯛たち。いつか立派な寿司ネタに?(写真/筆者提供)

 今年もうなぎたちにとって受難の日である「土用の丑の日」がやってきます。しかしながら最近は、うなぎの価格が高騰して、とても我々庶民が気軽に口にできる食材ではなくなってしまいました。

 そんな中、朗報もあります。国の研究機関が、うなぎの完全養殖にメドをつけたというのです。この取り組みがうまくいけば、近い将来、かつてのようにうなぎが普通に家庭の食卓に上る日が来るかもしれません。

 我々が食べているうなぎの99%は養殖モノですが、現在のうなぎの養殖は、うなぎの稚魚であるシラスウナギをとってきて、それを成魚に育てる、厳密にいえば「蓄養」と言われるやり方です。卵を人工的に孵化させて育てる完全養殖ではありません。したがって、稚魚の捕獲量によって、成魚の供給量が影響を受けます。近年は稚魚の捕獲量が激減しているため、うなぎの価格が高騰しているというわけです。

 あまり耳慣れない「蓄養」というやり方ですが、実はさまざまな用途に活用されています。うなぎのように、海で稚魚をとってきて成魚に育てて出荷するやり方は、ハマチにも用いられています。もじゃこと呼ばれる5センチ程度までのハマチの稚魚をハマチに育てて出荷しているんです。

 また、マグロを捕獲した後、2~3カ月間いけすの中で畜養し、イワシなどのエサをたっぷり与えて、脂の乗りをよくして出荷するやり方も行われています。トロ好きにはうれしいですよね。

 そのほかに、伊勢エビなどでは、出荷の時期を需要の多い時期に合わせるため、秋に捕獲して年明けまで蓄養して出荷するということも行われています。

 そして当社でも先月から、これまでにないまったく新しい形の蓄養にチャレンジしているんです。

 それは、定置網などに入った、100グラムから300グラムの真鯛やハマチの未成魚を、いけすで1~2年間、寿司ネタにできる大きさ(1・5キロ程度)まで育てて、当社の寿司ネタとしてお客様に提供しようという試みです。

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岡本浩之

岡本浩之

おかもと・ひろゆき/1962年岡山県倉敷市生まれ。大阪大学文学部卒業後、電機メーカー、食品メーカーの広報部長などを経て、2018年12月から「くら寿司株式会社」広報担当、2021年1月から取締役 広報宣伝IR本部 本部長。

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