定置網などにかかった未成魚は、海に戻してもほとんどがすぐに鳥や他の魚に食べられたり死んでしまうため、通常、他の魚のエサなどとして、タダ同然で取引されています。それを大きく育てて、付加価値の高い寿司ネタにしようという取り組みです。

 一見簡単そうに思えますが、実は多くの課題があります。一番のハードルは、自然界で生まれた未成魚に、どうやって人工エサを食べさせるかということです。

 真鯛やハマチは、自然界ではエビなどの甲殻類をはじめとする自然のエサを食べて育ちます。彼らにペレット状の人工エサを与えても、まったくエサと認識せず、どんなにお腹がすいていたとしても、興味すら示さないのです。

 どうすれば自然界育ちの魚たちに、人工のペレット状のエサを「あ、これって食べてもいいんだ!」と認識してもらえるか? そこで編み出されたのが、「人(魚)のふり見て自分も……作戦」です。

 自然育ちの未成魚を入れたいけすに、人工孵化で生まれたほぼ同じ大きさの未成魚を混ぜます。人工孵化で生まれた魚は、生まれた時から食べ慣れたペレット状の人工エサを普通に食べます。すると、おなかの空いた天然の未成魚はそれを見て、「あの変な形のものは食べてもいいんだ!」と学習して、食べるようになるはず。そう考えたのです。

 実際に実験してみたところ、予想通り、しばらくすると天然の未成魚もペレット状の人工エサを食べるようになりました。

 現在、約500匹の真鯛の未成魚が、いけすの中ですくすくと育っており、順調にいくと2021年には立派な真鯛となっているはずです。この蓄養で育った真鯛たちに、「近大マグロ」のような、何か素敵な愛称を付けたいものです。

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◯岡本浩之(おかもと・ひろゆき)
1962年岡山県倉敷市生まれ。大阪大学文学部卒業後、電機メーカー、食品メーカーの広報部長などを経て、18年12月から「くら寿司株式会社」広報担当

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岡本浩之

岡本浩之

おかもと・ひろゆき/1962年岡山県倉敷市生まれ。大阪大学文学部卒業後、電機メーカー、食品メーカーの広報部長などを経て、2018年12月から「くら寿司株式会社」広報担当、2021年1月から取締役 広報宣伝IR本部 本部長。

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