発達障害を持つ人の「働きづらさ」「生きづらさ」の改善を目指し、就労や生活サポートに最新テクノロジーの活用が進んでいる。
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上司からパソコンのデータ入力を指示された。だが、要領をつかめず、立ち往生してしまう。周囲では、同僚や上司が忙しく電話応対したり、険しい表情でパソコン画面をにらんだりしている。誰に相談するのがいいのか。すると、画面上に三択で候補が表示される──。
発達障害を持つ人の就労移行を支援する会社「Kaien(カイエン)」が、専門医の監修のもと、メーカーと連携して開発したVR就労支援ツール「emou(エモウ)」のプログラムだ。VR(バーチャルリアリティー)ゴーグルを装着しているのは、いずれも発達障害の当事者たち。表情や所作などから比較的余裕のありそうな隣席の同僚女性に相談する「正解」を選ぶまで、立ち往生の場面にリセットされる。
emouは、発達障害を持つ人が対応に苦慮しがちな状況の改善を意図して作られた。冒頭の「援助要請」のほか、就職面接や電話応答、職場での雑談などが用意されている。リアルな場面展開は、受講生から「臨場感があり、従来のビジネス講座より実践的」と好評だ。VR体験後は、職場の状況を見極めるポイント整理や、相談の重要性の理解を促す講義などが行われる。
Kaienの鈴木慶太代表(41)は、元NHKアナウンサー。12年前、長男が発達障害と診断されたことなどをきっかけに、2009年、同社を立ち上げた。設立以来、講師が上司役を務め、仕入れや会計などさまざまな職場を疑似体験するロールプレイング形式のプログラムや、電話応対などのワークショップを開催。150社以上の企業と連携し、1千人を超える発達障害者の就業実績を積み重ねてきた。それをVR技術に結集させたのがemouだ。ビジネスシーンのバリエーションは今後拡充を図るという。
「VRは没入しやすい発達障害の特性に合う。経験の少ない支援者でも、一定の質のソーシャルスキルトレーニングを提供できます」(鈴木さん)