「きれいごとを言っていても世の中はきっと変わらないし、でもそんな中で自分たちはどうやって生きていく?ということを、松坂さんとシムさんの表情に委ねました」

 脚本には「向かい合うふたり/暗転」としか書かれていなかった。しかし監督は現場で松坂さんに「杉原は最後吉岡に何か言うと思うんだけど、何て言うと思う?」と聞いたという。

「そうしたら松坂さんが言った言葉が僕が思っていた言葉とまったく同じだったんです」
 虚を突かれるラストシーン。松坂さんの口の動きにぜひ注目してほしい。

◎「新聞記者」
出演はシム・ウンギョン、松坂桃李、本田翼、高橋和也、北村有起哉、田中哲司ほか。6月28日から全国公開。

■もう1本おすすめDVD「孤狼の血」

 松坂桃李。いま、組織の論理と個人の正義との間で葛藤する公務員を演じさせたら並ぶものがいないのではないか。「新聞記者」ではエリート官僚だったが、「孤狼の血」では広島大学卒で、県警本部から所轄署に赴任した刑事・日岡秀一を演じている。

 昭和63年。暴力団対策法成立直前の広島を舞台に、暴力団の抗争と、それと対峙する警察組織内部の対立も描かれる。

「警察じゃけえ、何をしてもええんじゃ」「奴らを生かさず殺さず、飼い殺しにしてくんがわしらの仕事じゃろうが」といった台詞がかわいく思えるほど強烈なキャラクターの、役所広司演じるマル暴のベテラン刑事・大上章吾と赴任早々組まされる日岡。暴力団との癒着もものともせず、違法すれすれの捜査も辞さない大上に振り回されながらも徐々に信頼していくのだが、実は日岡には隠れたミッションがあるのだった。

「警察小説×仁義なき戦い」と評される柚月裕子の同名小説の映画化で、監督は「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」の白石和彌。原作より映画の方が大上の純粋さと稚気、日岡の葛藤がしたたかに描かれているのが、余計胸を抉る。

◎「孤狼の血」
発売元:東映ビデオ 販売元:東映
価格3800円+税/DVD発売中

(編集部・小柳暁子)

AERA 2019年6月24日号