地下鉄サリン事件被害者の会代表世話人の高橋シズヱさんが、実行犯である広瀬健一元死刑囚の手記に寄稿した。どのような思いから、言葉を寄せたのか。彼にどのような感情を抱いているのか。死刑執行後の心境を聞いた。
【年表を見る】地下鉄サリン事件をめぐる広瀬元死刑囚らの主な裁判
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3月20日。地下鉄サリン事件の被害者は大きな悲しみを抱えながら、今年も「その日」を迎える。事件から24年となるが、昨年は大きな「変化」もあった。教祖の松本智津夫(麻原彰晃)元死刑囚を含む、教団幹部13人の死刑が7月に執行された。オウム真理教が起こした数々の事件は再び注目を集め、報道では元死刑囚らの人物像が改めてクローズアップされた。
地下鉄サリン事件の実行犯である広瀬健一元死刑囚(享年54)も、その一人だ。早稲田大学理工学部応用物理学科を首席で卒業するほどエリートだった広瀬元死刑囚は、その知識が教団から重宝されて「科学技術省」の幹部に抜擢。教団武装化の役割を担い、自動小銃密造などにも携わった後に、地下鉄サリン事件の実行犯として逮捕、死刑判決を受けた。
3月27日、彼が獄中でまとめた『悔悟 オウム真理教元信徒・広瀬健一の手記』(朝日新聞出版)が出版される。同書では、物理の秀才がなぜ非科学的なオウムの教義にひかれ、教団の武装化に加担していったのか、その時々の心の動きと解釈を自ら精緻に分析している。
手記には、地下鉄サリン事件被害者の会の代表世話人である高橋シズヱさん(72)が書いた「『広瀬健一』について」という文章も6ページにわたって収められている。地下鉄サリン事件の実行犯の書籍に、遺族が寄稿をするのは異例のことだ。なぜ、事件の「加害者」である広瀬元死刑囚の本に言葉を寄せたのか。死刑が執行された今、彼に対してどのような感情を持っているのか。高橋さんに話を聞いた。
「私は広瀬には恨みは持っていません。そもそも地下鉄サリン事件は麻原を頂点とした組織的なテロ事件です。犯行を指示された実行犯は見ず知らずの人間であり、個人的に憎むという対象ではありません。地下鉄サリン事件に関与した10人の死刑囚の裁判は最後まで傍聴しましたが、広瀬は自分の知っていることは話すべきだという誠実な態度だったことが印象的でした」