親族のもとで生活することが心愛さんの一時保護解除の条件だったが、栗原容疑者は「お父さんに叩かれたのは嘘です」などと心愛さんに書かせた文書を柏児相に見せ、「連れて帰りたい」と要求。柏児相は5日の記者会見で、文書を不審に思ったが、心愛さんに確認することなく、親族宅から両親のもとへの帰宅を認める決定を昨年2月28日に下したことを明らかにした。心愛さんが書いたか不審に思った児相職員が約3週間後に面談した際、心愛さんは父親から母親にメールで届いた文を「見ながら書き写した」と打ち明けているが、柏児相は電話で栗原容疑者に心愛さんと面談した事実を伝えるにとどまった。これ以降、柏児相は栗原容疑者と接触はとっていない。学校に楽しく通っていることから、特別な対応は不要と判断していた。

 柏児相の直近1年の虐待相談受付件数は1594件。対する児童福祉司の数は41人(非常勤含む)。児童福祉司の勤務年数は3年未満が56%だった。虐待死事件が起こるたびに現場のマンパワーの問題も指摘されるが、児童心理司として都内の児童相談所に19年間勤務した「山脇由貴子心理オフィス」の山脇由貴子代表はこう話す。

「児童福祉司は児童相談所に配属された人間で、専門的な知識や技能を持った『士』職ではありません。ただ人を増やすだけなら、今回の容疑者のような悪質なクレーマーが出た場合、事なかれ主義で、判断ミスもなくなりません。数カ月の研修で現場に出て、数年で異動する現状から、専門職として採用する仕組みに変えるなど、質を上げていく必要があります」

 子ども虐待死ゼロを目指すNPO法人シンクキッズ代表理事の後藤啓二弁護士は「児童相談所や学校が、親に毅然と対応できない現実を踏まえた上での再発防止策が必要だ」と話す。

「警察と確実に漏れなく情報共有し、連携して対応する仕組み作りが最低限必要です。児童虐待の対応件数の約半数は警察からの通告ですが、児相が受けている残り約半数の事案は警察に共有されません。そのため、110番で警察が向かっても『夫婦げんかです』などとだまされて虐待を見逃し、その直後に虐待死した事件も実際にあります」

 後藤弁護士は児童相談所全国共通ダイヤル「189」ではなく「110」への通報を推す。

「通報を受けて48時間以内に対応すればいいというのんびりとした児童相談所に連絡するよりも、24時間対応し、ただちに子どもの安否を確認する警察が対応するほうが、子どもの安全を守れます。虐待親に対しても効果が全然違います」

(編集部・澤田晃宏)

AERA 2019年2月18日号