同誌のレイチェル・ブロンソン社長兼最高経営責任者(CEO)も、終末時計の針が変わらなかったことを「安定」として受け取られることに懸念を示し「ニューアブノーマル(新異常期)」という言葉を使って現状を表現。「最も危険だった冷戦期と同レベルで憂慮すべき状態」と警告した。

 それだけの危機感を背景にしながら、同誌はどのように「2分前の据え置き」を判断したのだろうか。

 ブロンソン社長によると、今年の終末時計の検討が始まったのは昨秋、キーワードは最初から「ニューアブノーマル」だった。より安全で健全な世界を前進させるための国際合意形成でリーダーシップをとってきた米国が、背を向け、「致命的で危険な離脱」をしたことに対する現状認識から生まれた言葉だったという。事実とフィクションの区別が困難となり、大きな問題解決に必要な能力を傷つけていることもニューアブノーマルの象徴の一つだとした。

 その結果、独裁者に勢いを与え、世界中の人々を社会的規範の破壊や逸脱、政治的なまひといった危険な状態に陥れていると主張している。具体的な名前の明示はなかったが、トランプ米大統領の米国第一主義やフェイクニュース戦略を念頭に置いていることが容易に想像できる。その悪影響が世界にも波及し、「リトルトランプ(小さなトランプ)」のような人物や現象が各地で見られたのが18年だった。

 18年1月に終末時計の針が30秒進んで最悪の「2分前」となった時は、北朝鮮の核開発が最大の懸案事項となっていた。北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長とトランプ大統領による批判合戦が、「言葉の戦争」として心配された後の発表でもあった。

 今年の発表では、両国による批判合戦の収束や北朝鮮による非核化意思の表明などを改善点に挙げたが、実際の非核化が進んでいるわけではないとして引き続きの懸念材料と認定している。一方でトランプ大統領によるイラン核合意破棄やロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約離脱方針の表明が、世界の軍縮プロセスを完全に分解させようとしていると忠告。核兵器の近代化を進める核大国や米ロ間の軍拡競争なども懸念材料に挙げた。

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より安全になったのか、危険となったのか…