国内で宇宙旅行の輸送サービスに名乗りを上げているのは、「PDエアロスペース」「スペースウォーカー」の2社だ。
【画像】「PDエアロスペース」と「スペースウォーカー」が開発する機体がこちら
PDエアロスペース(本社・愛知県)は、米国ヴァージン・ギャラクティックのスペースシップ2同様、垂直に打ち上げられる「ロケット」ではなく、翼を持ち水平に離着陸する「航空機」スタイルの機体開発に取り組む。
最大の特徴は、酸素の取り込み方が異なるジェット燃焼とロケット燃焼を切り替えるオリジナルのエンジンだ。特許技術であるこのエンジンを使えば、スペースシップ2のように空中で機体を分離する必要はなく、離陸から着陸まで単一の機体で済む。緒川修治社長(48)は言う。
「ビジネスジェットに乗った気分で、そのまま宇宙空間と地上を往復できます」
同社の機体はコストや安全面でも優位性を持つ。単一の機体のため製造・維持管理コストが大幅低減できる上、ジェット燃焼で飛行するため帰還の際、着陸のやり直しや緊急時に別の空港への着陸も可能になる。
「サービス開始当初の搭乗価格は、他社の7割程度に設定予定です。他社が2500万円であれば、当社は1700万円台になります」(緒川社長)
同社は17年7月に「ジェット─ロケット切り替えエンジン」の燃焼実験に世界で初めて成功。同エンジンを搭載した無人機で19年中に宇宙へ到達、24年に6人搭乗の宇宙旅行開始を見込む。
「庶民の宇宙旅行」を標榜する緒川社長は、こう意気込む。
「技術革新なくして価格破壊は起きません」
17年12月に起業したスペースウォーカー(本社・東京都)は、日本版の無人スペースシャトルと呼ばれ、JAXAの前身である宇宙開発事業団などが1993年に始め05年に中止した無人有翼往還機「HOPE-X」をはじめとする開発研究で蓄積した技術を活用する。
この開発に携わった九州工業大学の米本浩一教授が創業者となり、国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟の運用会社「有人宇宙システム」(JAMSS)元社長の留目(とどめ)一英氏、元三菱重工業執行役員で元日本ロケット協会会長の淺田正一郎氏ら日本の宇宙業界の主だった関係者が取締役に名を連ねる盤石の布陣だ。眞鍋顕秀CEO(最高経営責任者、38)は、国産技術によるスペースプレーンの実用化に強い決意を示す。
「日本が数十年にわたって蓄積してきた技術力を結集し、まずは身近な宇宙との往来が当たり前になる世界を実現したい」
同社はJAXAや国内主要メーカーと連携し、27年以降の有人宇宙旅行サービス開始を目指す。高度は120キロを想定。機体は乗員2人、乗客6人の計8人乗り。搭乗価格は未定だが、ヴァージン・ギャラクティックと同価格帯を見込む。「将来的には、一般の人も手が届くよう、数百万円台まで下げたい」と話す眞鍋CEOはこう先を見据える。
「今が時代の転換点。私たちが宇宙産業において世界をリードすることができれば、この先100年の日本の未来を大きく変えることになります」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2019年1月14日号