「母はどうして遺言書を残しておいてくれなかったのか。判断能力があるうちに、遺言を書く時間は十分にあったはず。残しておいてくれればこんなに揉めなくて済んだのに」

 会社員の女性(42)は、相続のことを考えると今も怒りがわいてくる。

 昨年5月、母親(73)ががんで亡くなり四十九日の法要を終えた夜、父親(74)は女性と女性の妹(41)、弟(38)の3人を実家の居間に呼ぶと、母親が残した遺産の分割について話をした。

 父親が言うには、母親の遺産が約1億円ある。それを女性と女性の妹には2千万円ずつ、弟には倍の4千万円を分割するのだという。現行民法では、法定相続分は全て平等だ。

「どういうこと! 等分でしょう!!」

 女性は納得がいかず根拠を尋ねると、父親は、お前たち娘2人は嫁に出たが弟は実家の会社を継ぐことを決めてくれたからで、母親の遺言でもあるという。実際に遺言があった場合はその内容に従うことになるが、証拠はない。父親は「生前に母親と話し合って決めた」の一点張り。妹は、

「どうせお父さんとお母さんは弟の方がかわいいんだから……」

 と泣くばかりで、その場は修羅場に。当の弟は、もらえるものはもらっておきますという態度で、知らん顔で座っている。それにも腹が立ったという女性は結局、父親の意見を受け入れた。今はこう話す。

「私たちはまさか母にそんなに遺産があるとは知らなかったし、母も遺産のことで家族が揉めるとは思わなかったのかもしれません」

(編集部・野村昌ニ)

AERA 2018年12月31日号-2019年1月7日合併号より抜粋