今回、実に“らしい”と思った一幕は。平尾昌晃さんの遺産相続を巡って騒動があり、その記者会見中に「引退宣言」の報が入ったことだ。平尾三男は記者会見中だった。平尾陣営は、ある種の見せ場を貴乃花に奪われた。訴えたいことはわかるし、金を巡る内輪もめは安定して面白いが、「貴乃花引退」というトピックスにはかなわない。こういうことを貴乃花は平気で出来るのである。しかも狙わないで。「人の話を聞かない」の真骨頂とは言えまいか。知人の話によると、1992年、10月26日に明らかになった宮沢りえさんとの婚約の報は、日本シリーズ覇者となっていた西武ライオンズ(当時)の祝賀ムードをいとも容易く捻りつぶし、翌日のスポーツ紙一面を鮮やかに奪ったそう。これも狙わずである。こういう生き物を前に我々にどうしろというのだ。目を奪われるしかないだろう。

 近頃わが家では私のことを「貴乃花か!」と言う。話を聞かないかららしい。気をつけたいと思う。

※AERA 2018年10月22日号

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マキタスポーツ

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マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。子供4人。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである。』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞。近刊に『越境芸人』(東京ニュース通信社)。『決定版 一億総ツッコミ時代』(講談社文庫)発売中。

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