場内市場飲食店は「早い、安い、旨い」の三拍子がそろった食堂が今も軒を連ねる。牛丼でおなじみの「吉野家」の第1号店も築地だ。やはり築地開場当時から市場で働く人に愛されてきた「印度カレー中栄」4代目・円地(えんち)政広さんは言う。

「市場は肉体労働でしょ。それに毎日の食事だから食べる人によってリクエストが違うんです。一つの皿にカレーだけでなく、ハヤシのルーもかけてくれとか、早く食事を済ましたいので、熱々のルーにキャベツの千切りを添えてくれとか。当初、そうしたリクエストは常連のための裏メニューだったんだけど、やがてそれが店の看板メニューになったんです」

 中栄ではカレーに卵入りのみそ汁を合わせるのが常連スタイル。半熟がいい人は「玉落ちみそ椀やわらかめ」、溶き卵がいい人は「玉ちらしみそ椀」と注文する。こうした市場ならではの流儀は「情報を食べる」というグルメたちの胃袋をわしづかみにした。

 しかし、テレビで取り上げられたからといって、店の軒先に連日のように大行列ができることはなかった。大和寿司の2代目・入野光広さんは言う。

「場内に観光客があふれかえるようになったのは、2000年に都営地下鉄大江戸線の築地市場駅が開業してから。時を同じくしてインターネットが広がり、やがてツイッターやインスタグラムなどSNSが普及すると海外からも観光客がやってくるようになりました。今では1日300人が早朝から行列をつくりますが7割が外国人。休日では2時間待ちは当たり前です」

 関東大震災をきっかけに日本橋から移転し83年。長きにわたり東京の、いや日本の食文化を牽引する存在であり続けた築地市場は、18年10月6日、最後の営業日を迎える。(編集部・中原一歩)

※AERA 2018年10月8日号より抜