今年のカンヌ国際映画祭に出品され、「フランス人を始め、他国の人の恋愛観や文化の違いも感じることができた」と東出。9月1日から東京・テアトル新宿ほか全国公開 (c)2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/COMME DES CINEMAS
今年のカンヌ国際映画祭に出品され、「フランス人を始め、他国の人の恋愛観や文化の違いも感じることができた」と東出。9月1日から東京・テアトル新宿ほか全国公開 (c)2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/COMME DES CINEMAS

 恋に落ちることの不思議を描いた映画「寝ても覚めても」で、2役を演じ分けた俳優・東出昌大。何百回も台本を読み込む「濱口組」の現場でつかんだものは。

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 愛する男性が突然失踪してしまったら? その人とそっくりな顔をした男性と出会ってしまったら?

 映画「寝ても覚めても」は、本作が商業映画デビュー作となる濱口竜介監督に「恋に落ちることの魔法か呪いのような不思議な力を、ここまで真に迫って描き切った恋愛小説を私は知らない」と言わしめた、柴崎友香の同名小説の映画化だ。

 大阪で写真展の帰り道に麦(東出昌大)と運命的な恋に落ちた朝子(唐田えりか)。イケメンで自由気まま、どこか宇宙人のような彼に、朝子は親友から「絶対泣かされるで」と警告される。実際、麦は「俺は、何があっても朝ちゃんのところに帰ってくるよ」との言葉もむなしく、ある日、靴を買いに出たまま帰ってくることはなかった。2年後、東京の喫茶店で働いていた朝子はある日、麦にそっくりな亮平(東出・2役)と出会う……。

 風の吹くまま気の向くままの麦と、真面目で誠実、愛する女性一筋の亮平。2役を演じるとなると問題になるのはその演じ分けだが、東出は、

「今回は演じ分けの難しさよりも、濱口監督の演出に則(のっと)った方法で演技することが新しい試みでした」

 と話す。

 もちろん最初から演じ分けを考えなかったわけではない。クランクイン前に行われたワークショップの最初の本読みでは、麦と亮平のセリフを声音を変えて読んだ。すると、濱口監督から「そういうことしないでください」と言われた。

「(麦と亮平の)セリフが違えば、『東出』という楽器から素直に出てきた言葉が自然と演じ分けになる、と。そこから何百回も本読みをするという濱口監督の独特の演出方法に則って、みんなで準備をしていきました」

 他の現場では俳優それぞれが役作りして現場に臨むが、濱口組では撮影前のワークショップを何度も繰り返し、念入りに行った。

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