そこでの人間関係を持たず、海外に出たからこそ趣味に没頭。その趣味が高じて、いつしかビジネスになることもしばしばだ。

 大手商社に勤める夫とともにマレーシアなどに滞在したカオリさん(45)は、そんな趣味をビジネスにした駐妻である。

「海外でしか味わえないおいしいお茶がすてきだなと。だからそれを大勢の方に知っていただきたいと思って……。その手段としてたどり着いたのが現地でしか手に入らないお茶のネット販売だったというわけです」

 こうした振る舞いは、かつて夫人会では格好の攻撃のマトだった。内助の功を旨とするこの集まりでは、駐妻が滞在地でビジネスを立ち上げることなどあり得ないことだからだ。夫人会ではカオリさんへのお誘いは、「“控えられた”」。

 ところがカオリさんのような新時代の駐妻にとって、こうした対応は願ったりかなったりである。気にせず趣味とビジネスに専念できるからだ。

 夫の駐在先でもある海外のお菓子をネットで日本人向けに販売する事業を立ち上げた商社員の駐妻、ケイコさん(38)は、みずからのビジネスの好調こそ、夫を支えることになると語る。

「もし夫が、自分の望むキャリアが築けないようなら、仕事を辞めてもらっても大丈夫です。次の仕事が決まるまで夫ひとり食べさせられますから──」

 ケイコさんの夫(47)は、そんな妻をどうとらえているのか。

「妻の支えがあるからこそ、社内では言いたいことを言い、やりたいことがやれる」

 最近では駐妻ならぬ〈駐夫〉が増えてきたという。

 もしかすると、これは駐在先で趣味が高じて立ち上げたビジネスが成功した妻をサポートすべく、夫が勤め先を辞めた話からきているのかもしれない。

 そもそもバイタリティーあふれる商社員の妻である。

 古式ゆかしい前時代的な集まりの器に収まることなどないのだ。これぞ「内助の功」ならぬ「外助の功」といったところか。(文中カタカナ名は仮名)(ライター・秋山謙一郎)

AERA 2018年7月23日号