小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)、『幸せな結婚』(新潮社)
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小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)、『幸せな結婚』(新潮社)
誰でも心の病気になることがあると知っておきたい(撮影/松永卓也)
誰でも心の病気になることがあると知っておきたい(撮影/松永卓也)

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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「どんなに気をつけて採用しても、心の弱い人を採ってしまうことがあるんだよね」

 ニュースを見て、そんな言葉を思い出しました。

 厚生労働省が発表した2017年度の労災補償状況によると、仕事が原因でうつ病などの精神障害を発症し、労災認定を受けた人は過去最多の506人。このうち自殺・自殺未遂は前年度比14人増の98人。要因として長時間労働やパワハラが増加傾向にあり、厚労省は対策が必要だとしています。この数字を見て、少なすぎると感じたのは私だけではないでしょう。実際にはもっと多くの人が、働きすぎや職場のいじめで精神を病んでいるのではないか……。

 10年以上前、私は労働組合の副委員長として、メンタルヘルスの問題を抱えた人の職場復帰について会社と問題意識の共有を図っていました。その中で、全く悪気なく、ある人が口にしたのが冒頭の言葉です。衝撃を受けつつ「でも、誰でも風邪を引くように、心の病気にもなりますよ」と返したのを覚えています。

 当時私は、不安障害の治療中でした。育児休業から復帰して程なく強烈な不安感と度重なるパニック発作に襲われ、会社に診断書を出して、つらい時は休み、通院しながら仕事を続けていたのです。職場では「小島は育児ノイローゼだ」という理解でした。私の不安障害の発症には成育歴や夫との関係、育児と仕事の両立の不安や産後の体調悪化など複数の要因があり、それに先立つ15年間に及ぶ摂食障害も、病気だと知らずにいました。自分も会社にとっては“うっかり採ってしまった心の弱い人”なのか。でも、誰でも心の病気になることがあると知ってほしいと強く思いました。

「うつは心が弱い人がなるもの」「精神障害は甘え」という偏見は、かつてほど公に語られることはなくなったとはいえ、まだ根強いでしょう。働き方改革の名の下に、本人が選んだというていで過酷な長時間労働を強いられる人が増えると懸念されています。ここでも「心の弱い人」という言葉が跋扈するのではないかと気がかりでなりません。

AERA 2018年7月23日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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