稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
見た目イマイチなウメたちは、我が家で立派な梅干しになるべく漬け込み中です(写真:本人提供)
見た目イマイチなウメたちは、我が家で立派な梅干しになるべく漬け込み中です(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【稲垣さんが漬け込み中の梅干しの写真はこちら】

*  *  *

 先週のウメ話の続きです。

 品質には何の問題もない、というか、最高にプックラと膨らんだスンバラシイウメでも、ちょっと表面の色が黒っぽいと農家の収入が3分の1になってしまうという話。

 これって一体誰がトクをしているのでしょう。

 消費者かというと、そうでもない気がする。そもそも我々はどんなウメが「おいしい」かをよく知らぬまま、スーパーで高く売られている見た目パーフェクトなものに憧れて、パーフェクトじゃないウメを買うと敗北感を抱いたりしているわけです。でも、実は見た目と味は関係ないと知ったらどうか。味を優先して、まともな値段で黒っぽいウメを買う人は少なくないんじゃないでしょうか。

 なので流通に関わる方々に切にお願いしたく。農作物の選び方について、我々消費者にもっと「本当のところ」を説明して売ってもらえないものかと。農家と我々の双方が納得して満足できるよう、コミュニケーションの仲立ちをしてもらえないかと。

 というのも、今回お世話になったのは若く意欲あるカッコイイ農家さんだったのですが、それでも人手不足の中、あまりの厳しい労働に腰を痛め爆弾を抱えるようにして作業しておられました。そんな中で「いつも買いたたかれる理由を探されている気がする」と言っていたのが心に刺さりました。「農薬は使わず、見た目が完璧で、なおかつ安い……そんなものはありえない」という言葉もグサリときた。我々は「おいしい」という言葉に振り回される一方で、本当に肝心なところをちゃんと知らず、そして知ろうともせず暮らしているのかもしれない。

 ギリギリのところまで頑張って安全な良いものを作っても、それが正当に評価されない現実が変わらなくては農業は持ちません。農業の生き残りというとブランド化とかそんなことばかり言われるけれど、そんな「目くらまし」よりも、フツーにまっとうなものをまっとうに買えることが豊かな世の中なのだと今更ながら。

AERA 7月16日号

著者プロフィールを見る
稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

稲垣えみ子の記事一覧はこちら