「ケリー氏はチャンスを台無しにした事実に向き合えていないだけだ。交渉に近寄るな。あなたは国を傷つけている」
トランプ大統領はツイッターでケリー氏を批判した同じ日に離脱表明の演説をした。11月の中間選挙を前にして、政敵・民主党による前政権の「失策」をより強調する形で演説ができたことも、トランプ大統領には絶好のタイミングとなった。
15年7月に米英仏独中ロの6カ国、欧州連合(EU)とイランが結んだ核合意に対する米国内での評価は、ピュー・リサーチ・センターによる当時の世論調査で賛成が21%、反対が49%と、よくなかった。公約実現で支持層にはより強くアピールでき、民主党も攻撃できる。イランを敵視する友好国イスラエルやサウジアラビアには喜ばれる。核合意には核の完全放棄が必要だとする米国の立場を強調する機会とすることで、6月12日にシンガポールである米朝首脳会談に向けた北朝鮮へのメッセージにもなる。米国第一主義に徹するトランプ大統領にとっては、全く悪くない話なのだ。
ただ、国際社会に与える影響まで読み切っての判断とは思えない。イランは米国の離脱を強く非難しながらも他の国々とは合意を維持する姿勢を現時点では見せているが、米国による経済制裁が復活することで、核開発の活発化に転じる危険性は常にある。国際原子力機関(IAEA)はイランが核合意を守っていることを確認している。それだけに同盟国の英仏独も米政権の一方的な離脱には批判的だ。
米国の経済制裁は、イラン産原油の取引国も対象になりえる。完全非核化への経済制裁でイランを孤立させるという建前だが、利己主義の本心が見えるところに、むしろ米国を国際社会からより孤立させるギャンブルにもなる。(編集部・山本大輔)
※AERA 2018年5月21日号