トランプ大統領 (c)朝日新聞社
トランプ大統領 (c)朝日新聞社

 米国が、前政権時代に英仏独中ロとともにイランを説得した2015年の核合意から一方的に離脱した。トランプ流の利己主義に国際社会の危機感が募る。

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「私が約束する時、それは守られる」

 5月8日、国民向け演説でイランとの核合意からの離脱を表明したトランプ米大統領は、誇らしげだった。大統領選挙中から「ひどい合意」などとして、核合意を結んだオバマ前政権を酷評してきたトランプ大統領は、政権発足後4カ月以内の離脱を明言していた。常に有言実行──。演説でトランプ大統領が最も強調したかったことだ。

 米国の報道などによると、北朝鮮との核問題で対話方向にかじを切った結果、すでに2020年の次期大統領選へ始動している自身の選対チーム内部や、前回の大統領選で支持を得た親イスラエル派の人たちから、イランとの核合意離脱の公約不履行を心配する声が出ていた。

 早期の離脱表明を熱望していたトランプ氏だったが、環境整備に時間がかかった。それぞれ外交と安全保障政策を担当したティラーソン前国務長官とマクマスター前大統領補佐官は、核合意に弾道ミサイル開発規制がなく、核開発の制限も時限であることなどの問題点には賛同しながらも、「厳密に言えばイランは合意を順守している」(ティラーソン氏)、「右にも左にも、できることには限度がある」(マクマスター氏)として、総合的なバランスを重視。合意離脱には消極的だった。

 バランスを軽視し、片方を完全に切り捨ててまでも目的を実現しようとするトランプ大統領は、この2人を解任。猪突猛進型でイランを毛嫌いするボルトン氏と、強硬派で大統領への忠誠心が強いポンペオ氏を、それぞれ大統領補佐官と国務長官にあてたことで、離脱は秒読み段階に入っていた。イランとの核合意に加わっていた英仏独の3カ国とは協議をしてきたが、離脱ありきの姿勢だったという。

 オバマ前政権下で核合意の立役者だったケリー元国務長官が、この2カ月で2回、イランのザリフ外相と合意維持について面会したと伝えられたことも、大統領の背中を押した。

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