稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
昔の服って縫製がえらく丁寧で、背中に長ーいジッパーが……独身者は柔軟性が命(写真:本人提供)
昔の服って縫製がえらく丁寧で、背中に長ーいジッパーが……独身者は柔軟性が命(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣さんがもらったワンピースはこちら

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 収納のないワンルームで暮らすことになったせいで洋服はフランス人レベル(もはや古い)の10着程度で、それでも何の不満もないワイと思っていたんですが、ちょっと困るのが、人前に出たり、人様と会食したりするとき。

 イヤ気取っているわけじゃないのだよ。でもあまりに着た切りスズメで押し通していたある日、なんか相手様の目にガッカリ光線を感じた気が……。確かに、ファッションって自分のためだけのものじゃない。おしゃれをすることは相手に対するオモテナシです。とはいえ滅多に着ない「お出かけ着」を買うのもなあと思っていたある日、友人から突然のメッセージが。

「断捨離中で母親の古い服がたくさん出てきたんだけど、もらってくれません?」。まあなんということでしょう! しかも「似合いそうなのを選んでみました」とワンピースの写真つき。お母様が若いころ洋服屋さんに勤めていて、当時手に入れた古いフランスの服なのだとか。

 ハイもちろん頂きましたとも! ワクワクして包みを開くと、自分じゃ絶対に選ばない赤と緑の鮮やかな花柄が目に飛び込んできました。ちょっと気恥ずかしい気もしたのですが、お出かけ時にエイと着て出かけると必ず、相手様にもお店の人にも「カワイイ〜」と褒められるのです。

 私、ちょっと目からウロコでした。服って自分で頑張って選んで買うものと思っていたんだが、人様が「これが似合うはず」と選んでくれるって、まるで専属スタイリストつき。手を通すと自分の知らなかった自分が立ち上がってくる。この世には服を「頂く」という楽しみがあったのです。

 というわけですっかり味をしめた私は、おしゃれな友達に「いらない服があったらくださいよ〜」とライトな一声運動を始めたら、いやもう来るわ来るわ! みんな服が増えて困っているんだなあ。捨てるのも忍びないもんね。たちまち置き場所がなくなり、今度は自分の服を人様に。こうして我がワードローブは常にニューコレクション。セルフメルカリ?

AERA 2018年3月5日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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