岸本と前出の青木は、共にロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズの卒業生。ファッションスクールランキング1位の人気校で、有名デザイナーが多数輩出している。ファッションデザイナーを志す日本の学生が海外の学校を目指すのは、デザインの発想の仕方について教え、それをビジネスにする方法を教える場が国内にないからだとも言われている。

 AKIRA NAKAのデザイナー、ナカアキラは、ベルギーのアントワープ王立芸術アカデミーなどでファッションを学び、帰国後の07年、ブランドPOESIE(ポエジー)を立ち上げた。コネも貯金もなく、アルバイトをしながらデザイン画を描く毎日。09年にブランド名をAKIRA NAKAとして東京コレクションに参加したが、全力投球で作った服はとがりすぎて思うように売れず、規模も大きくならない。そこで10年以降、ファッションショーをやめた。

 ショーには莫大(ばくだい)なお金がかかる。ナカはその資金を服作りに回すことで、表現したいものの精度を上げていった。

 ファッションの世界では、どんなにたくさん注文が入っても、代金は作って売ってからしか手に入らない。そもそも、洋服が企画されてから店頭で売られるまでには膨大な時間がかかる。ショーをやめたことで、

「プリントにもうひと手間かけられたり、生地にもっとこだわったりできるようになった」

 とナカは言う。

 コンセプトも、コレクションクラスのファッションをデイリーに着られる、というものに変更した。シンプルな服を豪華なテキスタイルで作るなど、付加価値のある服を提供したい。

「真っ黒だったデザインが、プリントを作り始めたりテキスタイルを織ったり、色を使うようになりました」(ナカ)

 ものづくりへの関わり方も変わった。デザインはチームでするものだと切り替えて、自分の仕事をどんどん他の人に任せていった。空いた時間に商品を扱ってくれる百貨店などを回り、販売スタッフへの勉強会を開くためだ。

「工場がどんな思いで生地を染め、織っているか。どれだけの人が関わり、どれだけ時間をかけて作られた一着なのか。それを伝えていく。スタッフに実際に着てもらうとお客さまへの売り方も変わり、それがお客さまが着た時の高揚感にもつながっていくと思うんです」(同)

 目指すのは、絵画を見て心が動く時のような「価値の味わえる服」だ。(文中敬称略)(編集部・柳堀栄子)

AERA 2018年1月29日号より抜粋