表彰状を破ったハンドボール部顧問教諭の処分について、日本スポーツ仲裁機構が仲裁判断の文書でつけた付言部分。学校関係者に向けて、暴力指導が起こる土壌を座視していなかったか「改めて認識してもらう必要がある」としている(撮影/写真部・片山菜緒子)
表彰状を破ったハンドボール部顧問教諭の処分について、日本スポーツ仲裁機構が仲裁判断の文書でつけた付言部分。学校関係者に向けて、暴力指導が起こる土壌を座視していなかったか「改めて認識してもらう必要がある」としている(撮影/写真部・片山菜緒子)

 スポーツの世界で繰り返される指導者や年長者による暴力事件。礼節を重んじるはずの相撲の世界で起きた暴力事件の衝撃も、いまだ冷めない。暴力で本当に強くなるのか。子どもたちには未来にわたる影響がある。

 埼玉県高校ハンドボールの新人戦。ある強豪校が決勝で惜敗、50代教諭がキャプテンが差し出した表彰状を生徒の前でビリビリ引き裂くという前代未聞の「事件」が起きた。鬼のような形相。生徒たちはうなだれるしかなかった。2016年秋のことだ。

 教諭は後に「気合を入れるためだった」などと話したが、ハンドボール部員の男子生徒(17)は、本誌の取材に答えて当時の思いをこう語った。

「スポーツへの冒涜(ぼうとく)だと感じました。そのときは2位の力しかなかっただけのこと。なぜ破るのか理解できなかった。3位のチームにも申し訳ない」

 この男子生徒は、男子ハンドボール日本代表元監督の酒巻清治さん(55)の長男だ。

 この一件は、「賞状破りは指導か?」などの見出しで報道もされたが、「賞状破り」までに何があったのかは、あまり知られていない。

 酒巻君によれば、部では暴力や暴言が蔓延していた。多くの部員の受け止め方は「自分たちが悪いからやられるんだ」。酒巻君自身は暴力はいけないことだと認識していたし、全国大会に行けば「体罰は許さない」の横断幕がかかる。スポーツ界全体が暴力根絶を目指していることも知っていた。

「それなのにどうして、先生は体罰を続けるんだろうと疑問だった。世の中で『ダメだ』と強く言われていることが、自分たちの身の回りで実際に起きていた」(酒巻君)

 教諭は常に、誰かひとりをターゲットにした。棒で胸を突いたり、拳で殴ったり、蹴ったり。表彰状を破った新人戦の準決勝ではタイムアウト中、ひとりの生徒に「あとで覚えておけよ」と言い放ち、ハーフタイムになると体育館の隅に連れていって飲料の缶で頭を殴った。その後は、「俺がやると体罰になるから、おまえやれ」とキャプテンに暴力行為を命じたという。

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