12年12月に大阪の高校で、バスケットボール部員が顧問の暴力やパワハラを理由に自死した。その際も遺族以外の親は「先生は悪くない」と顧問をかばった。それから5年。中高の運動部での指導者による暴力事件は収まる気配がない。

 プロスポーツの世界でも、元横綱・日馬富士(33)がモンゴル出身の後輩・貴ノ岩(27)に暴力をふるい、傷害容疑で書類送検されたばかりだ。日馬富士は記者会見で「礼儀を正そうと思い行きすぎた」などと話し、暴力を「教育的な指導」ととらえていた。07年に17歳の力士が「かわいがり」の名のもとに集団暴行を受けて亡くなったことをどう受け止めているのだろう。

 表出する事象を裏づけるように「体罰」という名の暴力を容認する人は多い。ヤフージャパンが17年10月に実施した体罰に関する意識調査では、「体罰はいかなる場合も認められない」と答えた人は2割。「体罰が認められる場合がある」が約8割を占めた。

 その8割の人たちには思いもよらないであろうデータがある。『子どもの脳を傷つける親たち』の著書がある福井大学の友田明美教授(小児神経学)は、米ハーバード大学と共同で、子ども時代に体罰を受けた経験がある18~25歳の若者約1500人について、MRI(磁気共鳴断層撮影装置)を使って脳の変化を調べた。その結果、体罰により前頭前野の容積が平均19.1%減少することがわかった。

「30歳前後までゆっくり成熟する前頭前野の一部が壊されると、うつ病に類似した症状が出やすい。犯罪抑制力に関わる部位でもあるため素行障害という問題行動を起こす確率が高くなる。体罰を繰り返し受けている子どもたちは非行に走りやすくなるということです」(友田さん)

 言葉の暴力が、視覚野や聴覚野を変形させることもわかった。

「暴言を浴びせられると言葉の理解力などが低下し、心因性難聴にもなりやすい。そういった慢性ストレスで傷ついた脳も、適切な治療を施せば回復することは可能です。ただ、ストレスを受け続ける期間が長ければ長いほど、影響があることを知ってほしい」(同)

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