実は2006年の初の核実験後、日米両政府で退避計画を詰めようとした。輸送の頻度を増やすため、韓国の米国人約20万人もまず日本へ運ぶ。航空機だけではとても足りず、艦船も出動。在日米軍基地は朝鮮半島有事への対応で使えないとして、どの空港や港へ送るのか──。

 計画は途上に終わった。どちらの国民が先かという日米間の問題に加え、韓国が自衛隊受け入れに後ろ向きだった。関係者によると、韓国はそもそも経済や世論への影響から外国人退避で「騒ぐ」のに冷ややかではあるが、当時は米国と協議しても、日本とはしなかったという。

日韓関係筋は、「韓国世論には自衛隊への警戒感が今も残っている。日本の植民地支配といった歴史問題だけでなく、最近の日本の改憲論議もあるからだ」と話す。

 日本色を薄めればいいという案もある。韓国には日米以外にも多くの外国人がいる。ひとまず退避先となる日本が関係国と韓国に呼びかけ、「退避計画作りに国際的に取り組む」(道下氏)というものだ。

 だが、安倍政権には日韓関係への徒労感もある。韓国国会が11月24日、「日本軍慰安婦被害者をたたえる日」を8月14日に定める法案を可決すると、「慰安婦問題の解決を確認した日韓合意の趣旨に反する」(菅義偉官房長官)と懸念を伝えた。

 なかなか腹を割って話せない日韓両政府。「邦人退避は人道的な話だから、いざとなれば韓国はちゃんと対応するはずだ」というのが日本側の希望的観測だ。(朝日新聞専門記者・藤田直央)

AERA 2017年12月11日号より抜粋