大阪大学教授の石黒浩さんと東京大学教授の池上高志さんらが人工生命を目指して開発したロボット「オルタ」。「意識を持つロボットはできると考えている」(池上さん)(撮影/編集部・長倉克枝)
大阪大学教授の石黒浩さんと東京大学教授の池上高志さんらが人工生命を目指して開発したロボット「オルタ」。「意識を持つロボットはできると考えている」(池上さん)(撮影/編集部・長倉克枝)
大澤さんが開発を進める、「人狼」をプレイする、表情が変わるロボット。6パターンの表情を組み合わせて感情を表現する(写真:大澤さん提供)
大澤さんが開発を進める、「人狼」をプレイする、表情が変わるロボット。6パターンの表情を組み合わせて感情を表現する(写真:大澤さん提供)

 映画「エクス・マキナ」で描かれるAIを搭載した女性型ロボットのエヴァは、主人公を誘惑し施設から脱走する。エイミー・トムスンのSF小説『ヴァーチャル・ガール』では、やはりAIを搭載した少女ロボットのマギーが感情を持ち、意思を持って自身を作った製作者から離れていく。

 SFで描かれるAIやロボットは、やがて怒りや悲しみ、喜びといった感情を抱くようになり、しばしば人間と対立する。AIの発展が著しい昨今、これまでSFで描かれてきた、感情を持つAIやロボットの実現も近いのだろうか?

●制御のための「情動」

「表情や行動から、あたかも感情を持っているかのように振る舞うロボットはできるでしょう」

 と、人と相互に作用するロボットを研究する筑波大学助教の大澤博隆さん(34)は説明する。これまでも早稲田大学などで感情を表現する人の表情をまねたヒューマノイドロボットの開発が進められてきた。表情での感情表現が豊かなロボットは、人とコミュニケーションしやすいためだ。

 大澤さん自身も、会話の駆け引きで相手の正体を見破るゲーム「人狼」をプレイするAIを搭載したロボットの開発を進める中で、ロボットの表情を変えられるようにした。

「人狼では相手を説得したり、欺いたりしますが、ロボットにも感情を表す表情があったほうが人間の心を動かしやすいのではという目論見です」(大澤さん)

 人間には表情などで表現される感情のほか、自身の内部状態としての「情動」がある。実は、こうした情動のモデルを作り、AIやロボットに実装する試みは古くからある。

「ロボットが『恐怖を感じる』という内部状態を作り出せれば、『安全な行動をとる』といったロボット制御をしやすくなります。こうしたロボット制御のための情動モデルは例えばペット型ロボットのアイボでも使われてきました」(大澤さん)

●求めるのは感情のケア

 ただし、こうした感情表現にしても情動モデルにしても、あくまでも人の役に立つために、そう振る舞うよう設計されたもので、AIやロボットが実際に感情を持つわけではない。

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