●政権内孤立で野に下る

 昨年の大統領選挙では、ブライトバート会長から選挙対策本部長としてトランプ陣営入り。人種差別的な極右は、移民国家ではすでにあってはならない存在だが、異例の抜擢(ばってき)は、トランプ氏の当選とともにホワイトハウス入りを確実にした。一方、ブライトバートもトランプ氏の選挙戦で、急成長した。選挙があった昨年は、米国内のアクセス数で年間29位に浮上し、現在でも63位と、政治的マイノリティーのサイトとしては躍進だ。昨年は、20億超のページビューをヒットした(オンライン調査アレクサ・インターネットによる)。

 バノン氏は、ホワイトハウスで、人種対立や排斥をあおる政策を進言してきた。移民排除のためメキシコとの国境に壁をつくるという公約、また、イスラム教徒の多い国の旅行者の入国を全面禁止するといった大統領令が、代表的な例だ。

 しかし、グローバリズムを支持する穏健派の、トランプ氏の長女で大統領補佐官のイバンカさん、その夫で大統領上級顧問のジャレッド・クシュナー氏、軍出身のマクマスター大統領補佐官らとことごとく衝突して、政権内で孤立。連邦議会でも共和党穏健派の「謀反」で、オバマケア(オバマ前大統領の医療保険制度改革)の改廃が反故(ほご)にされた。バノン氏が、伝統的な穏健派、メディア、経済界といった米国の「良心」ともいえる支配層に対し、「宣戦布告」した理由はここにある。

 ホワイトハウスという小さなコップの中の確執が、バノン氏更迭で、全米という野に放たれた。米国は、1960年代の公民権運動以来ともいえる不穏な時代を迎えそうだ。(ジャーナリスト・津山恵子/ニューヨーク)

AERA 2017年9月4日号