稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行。
<br />
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行。

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

*  *  *

 先日、とある行政機関に呼ばれて大勢の方の前でお話をする機会に恵まれたのですが、現地へ行き、担当の方と顔を合わせ、よろしくお願いしますと頭を下げたら付箋のいっぱいついた私の本を持っておられたのでお礼を言おうと思ってよくよく見ると、なんと図書館で借りた本!

 こんなことは初めてで、予期せぬ光景に私、思いもよらぬほど動揺してしまいました。顔を殴られたような感じがしたのです。必死に気持ちを立て直してなんとか元気にお話をして帰ってきましたが、どうにも心は沈んだまま。

 そう、私は傷ついていたのです。

 それが何であれ、仕事には相応の苦労が伴います。そして、それに敬意を表してお金を払ってくれる人がいて初めてその人は仕事を続けることができる。あなたが懸命に作ったものを当然のようにタダで持っていく人がいたらどう思いますか。自分にはそんなにも価値がないのかと傷つきませんか。いや借りたっていいんです。読んでいただいたことに感謝いたします。しかしやはり……。

 そんなことをぐるぐる考えていたのですが、ふと気づけば私とてマッタク偉そうなことは言えません。

 送料無料の本を買ってお得だと思っているのは私です。配達してくれる人への敬意はどこに? 宅配便を届ける人がいなくなっているのはきっと多忙のせいだけじゃない。私のような人間から投げつけられる「敬意のなさ」のつぶては人の心を静かに殺していくのだと思います。

 お金とは、自分の欲望を満たすための手段。これまでずっと当たり前にそう思ってきた。だから同じものならちょっとでも安く、あわよくばタダで手に入ればラッキーと思ってきました。

 でも世の中はつながっているのです。得をした自分の反対側には確実に損をしている人がいる。そして気づけば自分がいつの間にかその損をする側に回っていた。これを因果応報という。ここから抜け出すにはまず自分のお金の使い方を考えねばなりません。

AERA 2017年8月14-21日号

著者プロフィールを見る
稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

稲垣えみ子の記事一覧はこちら