怖さも不安もある。1年夏は甲子園の切符を手にしたが、昨夏は西東京大会の準々決勝で、優勝した八王子に敗れた。
「開会式で(八王子の主将が)優勝旗を返還するシーンを見て、悔しさが再燃してきた。去年の悔しさを晴らすために、ここまで頑張ってきた。今年は自分の満足するような結果を出して、チームを引っ張って、甲子園に出たいです」
高校通算本塁打は103本に達し、西東京大会期間中の記録更新にも期待が高まる。左打者の清宮が突出しているのは、無論、飛ばす能力だ。スイングスピードが速く、最近ではレフト方向へも力強い打球を飛ばす。マークされることを見越して選球眼も磨いてきた。
「本塁打に期待してもらうのはありがたいですが、自分にとって記録は二の次です。打席で本塁打を意識することはありません」
昨秋と今春の東京大会を制している早実は、西東京大会の本命だろう。しかし、とにかく投手陣に不安を抱える。柱となるエースがいないのだ。
春の東京大会決勝では、秋の決勝でも戦った西東京で最大のライバル日大三と対戦し、「18対17」というラグビーの試合のような乱打戦を展開した。
この試合で日大三の小倉全由監督はエース左腕の櫻井周斗をマウンドに上げなかった。清宮は昨秋、この櫻井に1試合で5三振を喫していた。小倉監督は夏の西東京大会の決勝で対戦することを見据えて、手の内を隠したのである。清宮は言う。
「日大三のことばかり考えるわけにもいかない。それは日大三も同じじゃないですか」
この夏の主役は自分──。そんな言葉に聞こえた。
(ノンフィクションライター・柳川悠二)
※AERA 2017年7月24日号