しかしこれがおそらくは生きるということなのです。

 苦しくてもやりたいことがある。それこそが幸せなんだよね。つまり幸せな人生とはラクな人生ではなく、ひどく苦しい人生なのでありました。

 まったく……聞いてねーよ!と叫びたい。

 そしてついに心から納得いくものを書き上げることができたのが嘘のようです。まだ死んじゃいません。

 そして、ありがたくもその原稿を受けとめてくれる人がいて、どうやったら多くの人に伝わるかと考えてくれる人がいて、実に多くの人の愛を得て、ついに一冊の本が出来上がる。それは本当に奇跡のような出来事です。それを目の当たりにした時、ああ自分は一人ではないのだと心の底から感じることができる。

 でもその奇跡は待っていても来ないんだよね。苦しみとセット。いや苦しんだって奇跡が起きないこともある。それでも苦しむ覚悟があるかどうかってことなんだよな。

 いやー、人生とは実にカコクです。まったく。

AERA 2017年7月10日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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