昨年12月、偽ニュースで「児童売春の舞台」とされた米ワシントン近郊のピザ店が銃撃された。写真は、偽情報に負けないよう同店を応援するメッセージを書く常連客ら (c)朝日新聞社
昨年12月、偽ニュースで「児童売春の舞台」とされた米ワシントン近郊のピザ店が銃撃された。写真は、偽情報に負けないよう同店を応援するメッセージを書く常連客ら (c)朝日新聞社

 フェイクニュースの脅威が深刻化している。単なる虚偽報道にとどまらず、国家間の情報戦にも悪用され始めた。SNS全盛の時代、インターネットを使った偽情報による大衆洗脳を防ごうと、各国は対策に躍起になっている。

 2002年に公開された映画「宣戦布告」の中で、こんな場面がある。日本に紛れ込んだ敵国の武装工作員集団への対応で、日本政府が現行憲法の制約下、自衛隊の治安出動をめぐり四苦八苦する。内閣による意思決定が遅れる中、在日米軍をも巻き込み、敵国と武力衝突寸前までに事態が悪化する。最後は、内閣情報調査室が事態を収拾させるために流したディスインフォメーション(虚偽情報)がうまく作用して、敵国が戦闘態勢を解除し、武力衝突の危機が回避される──。

 現実の世界でも、国家間の情報戦の裏舞台では、好ましくない事態を好転させるため、また、相手にとって好ましくない状況を意図的に作り出すため、虚偽情報が使われてきた。それが今、裏舞台を抜け出し、「フェイクニュース(偽ニュース)」という形で、インターネットを舞台に情報操作が行われる時代になっている。

 政治的意図を持った偽ニュースを防ぐことは容易ではない。発信源の特定が難しいばかりか、サイバー攻撃の一環として組織的に仕掛けられた偽情報の悪影響は甚大だ。実際、世界情勢を揺さぶる事態が起きている。

 6月5日、中東の安定に水を差す重大ニュースが世界を驚かせた。サウジアラビア、エジプト、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)、イエメンの5カ国が、カタールとの国交断絶を発表したのだ。断交の理由は、「テロ集団を保護し、国営メディアを通じてテロリストのメッセージを拡散している」(サウジ政府)ことだった。サウジは、国営カタール通信の報道を名指しし、カタールのタミム首長が、サウジなどが敵対するイランに友好的な発言をし、反イラン包囲網の中心にいるトランプ米大統領の将来を疑問視したなどとして激しく批判。これが関係断絶を最終決断するきっかけになったとも言われている。

●カタール国交断絶の裏に偽ニュースの可能性

 カタールは、内戦下にあるイエメンやシリアでの対応でサウジと協力し、米軍基地がある親米国でもある。それが一転、断交に発展した背景に指摘されているのが、偽ニュースの存在だ。

「今回の危機全体がデマに基づいていると考えている」

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