「派閥は中選挙区制度の下、複数の候補者が同一選挙区で争う中で切磋琢磨するシステムが構築されました。派閥の領袖は、総裁選に勝つため議員を抱え込む必要に迫られ、所属議員は派閥経由で党公認や政治資金、ポストの分配を授かる相補関係にありました」(中北教授)

 それが政治改革によって激変する。パーティーなどで巨額の資金を集めることが困難になる一方、党本部から直接、各議員に政治資金を配分する仕組みが確立された。閣僚ポストも派閥ごとに割り当てる慣例はほぼ消え、党公認の判断ともども総裁一任となった。

 現在に連なる官邸主導体制は、自民党長期政権が生んだ政官財の癒着構造やカネのかかり過ぎる政治に対する国民の怒りが後押しし、政権交代可能な2大政党への移行を前提に築かれた「政治改革の成果」なのだ。

 カネの流れと人事を掌握することで、調整型の派閥政治から脱却したイメージを顕在化させたのは小泉純一郎元首相だ。高支持率を背景に、リーダーシップを発揮する政権運営は第2次政権以降の安倍晋三首相と重なるが、中北教授は「政治手法は対極的」と言う。

「安倍さんは基本的に党内に敵を作らないけれども、小泉さんは党内に敵を作り、『抵抗勢力』との対立の構図を演出することでパワーを獲得しました」

 中北教授は、派閥との関係が安倍総裁の権力基盤強化につながっている、とも説く。

「安倍さんは弱体化している派閥を取り込むことで党を掌握し、派閥も安倍さんに取り込まれることをリソースとして生き延びているのが現状です」

●抵抗ではなく迎合勢力

 現職議員は派閥をどう見ているのか。郵政相や自民党総務会長も歴任した野田聖子衆院議員。岐阜県議時代に、「政界のドン」と言われた経世会会長の金丸信氏に「スカウト」されたのが国政入りのきっかけだ。90年の衆院選で旧岐阜1区から立候補したが、経世会には別の公認候補がいたため公認が得られず落選の憂き目に遭う。

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