だがIMコースの生徒の半数は実は高校からの入学者だ。全体の高い水準は、独自の“底上げ”のたまものでもある。

 同校のSGH推進機構長の武部恵子さんによれば、高校からの入学生には自分から意見を主張するのが苦手な生徒も多いため、手を挙げるところからトレーニングするという。もちろん英語が母語でない生徒の学習テキスト「ESL(English as a second language)」も使う。

●「道具頼みは受け身」

 とりわけ語学を重視する同校だが、その理由も明確だ。武部さんは「言語習得はメディアを手に入れること。大事なのは、いかに相手に伝えるか、相手を理解するか」。フォックス校長も「道具に頼るのは、結局受け身でしかない。『自分で』話せるからこそ、柔軟な対応ができる」とAI時代における英語教育の重要性を説く。

 語学堪能で中学から通う3年の田中琴奈さんは、「英語ができても、人間関係はこじれるものだと留学で学んだ。人種差別的な発言をされてへこんだが、受け入れることの大切さを知った。受け入れるところから国際交流は始まると思った」と、語学以外の収穫も多い。高校から入った3年の金井美玖さんも、「留学後、周りの反応に左右されず、主張できるようになった。人はそもそも違うから、と深く気にしなくなった。チャンスをつかめば何でもできる。いい意味でパワーアップしました」と、話題の「忖度」もどこ吹く風だ。

 それ以外のコースも相互に刺激し、活性化している。理科コース主任の渡辺儀輝さんは「これからの日本のサイエンス教育は、産業界や経済界のブレーンを輩出することを目指すべき。そのために必要なのは論理的に見通す力です」。積極的にIBコースの授業を見て研究し、理科コースで応用しているという。

 IBと語学を武器に進化を続ける立命館宇治。フォックス校長は言う。

「私たちは付属校だからこそできる教育をしています。それは18歳の知識量を増やすため、受験のための勉強ではなく、25歳、30歳になったときに何ができるかを考えた教育です。ここがまさに日本の中のグローバルなんです。多様性の中でいかに生き抜いていくかを、日本にいながら学べる学校です」(ライター・戸高米友見)

AERA 2017年6月5日号