●入りやすく見えにくい

 立正大学の小宮信夫教授(犯罪学)は「犯罪機会論」の観点から、こう強調する。

「子どもには、人ではなく場所で判断する力をつけてほしい」

 防犯というと不審者を気にしがちだが、小宮教授によれば子どもの誘拐の8割は、優しく近づきだまして連れ去るパターンだ。

「犯罪者を見抜くのは大人にも難しく、子どもたちに求めるのは酷で人間不信を招きかねない。それより『犯罪が成功しそうだ』と犯人が思う場所を見抜く力をつけることです。子ども自身が『ここで声を掛けられたら危険』と察知できれば、命を守ることにつながります」

 小宮教授の言う「犯罪が成功しそうな場所」は、「入りやすく見えにくい」場所だ。

 松戸の女児は、登校中に軽乗用車に乗せられた可能性があるとされる。周辺を歩いてみた。一軒家やマンションが立ち並ぶ住宅街で、一見すると犯罪が起きそうな雰囲気はない。だが、道路沿いの駐車場は間口も広く、確かに入りやすい。そこに止めた車から誘拐のチャンスをうかがうことはできそうだ。また、坂に面した家々は土台が高く、窓を開けても道路は見えない。

 近くに住む70代の女性は、学校近くで見守り活動をした後の渋谷容疑者が緑色の防犯ベストを着たまま、坂の下の空き地で1時間ほど他の住民と話し込んでいるのを何度も見たという。

「いま思えば、しゃべりながら車や人がどれくらい通るのか確認していたのかも」

「犯罪が成功しそうな場所」を見抜く力は、「入りやすさ」「見えにくさ」を意識して地域安全マップをつくる過程で子どもたちの中に育まれると小宮教授。子どもを守るためにできることはまだある。あきらめるわけにはいかない。(編集部・深澤友紀)

AERA 2017年5月1-8日合併号