農水省のホームページには、中国政府が各自治体に向けて発したワクチン施策についての文書が掲載されている。ワクチン接種を推奨し、その費用は国や地方行政が補助することが明記されている。

 喜田教授は、家きん疾病小委員会の委員長だった07年ごろ、国際獣疫事務局(OIE)に対して、中国、ベトナム、エジプトなどのワクチン使用を抑えるよう意見具申した。その結果OIEは、まずは殺処分などの摘発・淘汰の原則を優先するよう指導したが、中国だけはワクチン優先策を変えていないようだ。

 鳥インフルエンザの蔓延が新型インフルエンザのパンデミックの危機を招き、その一因が中国のワクチン政策にあるとしたら、中国の責任は重大だ。

 1月22日、ショッキングなニュースが舞い込んできた。香港衛生防護センター(CHP)が、旅行シーズンの春節を前に警告を発する文書を流したのだ。

 これによると、中国本土では今季、16年末までにH7N9型の鳥インフルエンザウイルスに感染した人が112人に達しただけでなく、今年1月には111人が新たに加わるなど急増しているという。かつてない異常事態に中国本土を訪れた旅行者へ生鳥市場などには近づかぬよう注意を促している。

●イヌやネコへの感染も

 中国では13年以来、H7N9型の感染者が累積で1千人近い。死亡率は4割前後と言われているが、今季の感染者は、かつてない勢いで増えている。

 世界中の鳥インフルエンザ情報を集めて掲載しているサイト「パンデミックアラート」によると、日本で流行していH5N6型鳥インフルエンザウイルスも、中国では14年以来、17人の感染者がいて、うち9人が死亡している。

 ただ、喜田教授によると、本来ヒトには鳥インフルエンザウイルスを受け入れる受容体がないので、感染した人は、のどなど上部気道に鳥型の受容体を持つ特異体質の人に限られる、と分析する。確かに感染例をみると、感染した家禽をさばいたり調理したりする濃厚接触者が大多数を占めていて、ヒトからヒトへの感染例は親きょうだいや子どもなど同じ遺伝子を持つ近親者がほとんどだ。

 だが、安心はできない。ウイルス遺伝子の特定部分が少し変異するだけでヒトへの感染を獲得する可能性も指摘されている。

 日本でも野鳥の被害が深刻だが、海外ではイヌやネコへの感染も確認されている。死んだ鳥やフンには近づかないことだ。飼っているネコやイヌが死んだ鳥に触れないよう気をつける必要がありそうだ。(ジャーナリスト・辰濃哲郎)

AERA 2017年2月6日号