●人気声優による生解説

 多くの企業が「ノー残業デー」に指定している水曜の夜に「大人を集客できるプログラム」を組み込み、区をアピールする発信拠点に、と考えたのだ。この企画は潜在的なニーズをつかんだ。午後7時半からの開演の1時間以上前からロビーに列ができることも珍しくない。

 人気の秘訣はイベントプログラムの多様さにある。

「常に次のイベントのネタを考えています」

 そう口をそろえるスタッフから過去のイベント事例を聞いて仰天した。

 大人向けでは、占星術研究家を招いた運勢解説やヨガ体験、人気声優による生解説……。大人向けに限定しないイベントでも、星空落語、コオロギやホタルを館内に持ち込んだ虫の音(光)鑑賞、ロケット発射音響体験といった意表をつくプログラムが、星空鑑賞とのコラボで展開されているのだ。

「敷居は低く、間口は広く」

 公共施設ならではの料金設定(大人500円)と、子どもから大人までが楽しめるプログラムの幅は随一と言えそうだ。

 ペンライトをもった店員に導かれ、案内された席に向かう。各テーブルには、キャンドルふうのLEDスタンドとペンライトが置いてある。

「ペンライトで照らしながらメニューを選ぶのは初めてです」。神奈川県内から来店した女性客(40)は、そう言って満足げに笑った。

「夫を見送りにきたついでに初めて入店しました。雰囲気もいいですね」

 羽田空港の国際線旅客ターミナルの5階にある、プラネタリウムとカフェを融合した「スターリーカフェ」。ターミナルの供用開始に合わせて10年にオープンした。

 店舗の構想は、ターミナルを管理する「東京国際空港ターミナル株式会社(TIAT)」が提案。カフェは「カフェ&バープロント」が運営している。

「空港施設にふさわしい、日常から離れた癒やしやトキメキを提供できるオンリーワンのスポットにしたいと考えました」
 TIATの広報担当、佐藤式子さんはこう説明する。

●小休止にもってこい

 3~15分のショートプログラムをほぼ断続的に上映している。プログラムの合間に自由に席を離れることができるため、小休止にももってこいのスポットだ。息をのむ光景に目を奪われながら飲食を楽しむ。そんな異空間での体験がビジネスの思わぬアイデアを導く、なんてことも期待できそうだ。

 今回訪ねた施設に共通するのは、「癒やし」と「エンターテインメント」のあくなき追求だ。これを邪道と言うなかれ。科学や未知なるものへの探求心も、そのワクワク感や心の安らぎが原動力になるのでは。「日常」から離れるのが難しい大人ほど、そうした時間を求める潜在欲求は強いはず。短時間で「頭の柔軟体操」ができる場は貴重だ。これからも「上質な娯楽」を開拓してもらいたい。(編集部・渡辺豪)

AERA 2017年1月30日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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