かつてなら、「豆のお菓子だなんて」と食べるのをやめたフランス人も、今では喜んで口にするようになった。そこには「ティーセレモニー、茶道の果たした役割が大きい」というのが山口さんの見方だ。

「伝統がある国同士で、それぞれのおいしい食材を合わせると、新しい味が生まれるでしょう。そうした挑戦をするためにも、基本である茶事の和菓子に精進する。その両輪があって、末富なのだと思います」(同)

●10年後の新たな伝統を

 滋賀県のJR近江八幡駅から車で10分。八幡山を背にした緑豊かな土地に2015年1月、たねやの「ラ コリーナ近江八幡」がオープンした。甲子園球場3個分の敷地には、芝の生える屋根を持つメインショップ(藤森照信氏設計)やコンテナショップの横に、田んぼが広がる。

 全国のデパートに店を出し、多くのファンを持つたねやは、近江八幡で1872年に創業した老舗だ。

「歴史や文化に裏打ちされたお菓子から、10年、20年と続く未来の伝統を、いま作っている気持ちでいます」と社長の山本昌仁さん。

 新商品でも、従来の和菓子の枠にとらわれない発想がちりばめられている。「オリーブ大福」は、塩味のきいたでこし餡を包んだ大福に、オリーブオイルをかけて食べるというもの。話だけ聞くと驚くが、食べてみると、あっさりした餅とこし餡に、オリーブオイルが無理なく合う。後を引くおいしさだ。山本さんがイタリアを旅していたときに出合った、素晴らしいオリーブ畑にほれこんで、みずから考えたお菓子なのだ。

「世界中の魅力的な食材をたねやが使ったらこうなる──という挑戦をしていきたいのです。オーガニックの食材はもちろん、フェアトレードにも関心を持っています。何事にもオープンでいたいですが、食以外の事業はやりません」(山本さん)

「和菓子は地域で育つブランド」と語る山本さんは、会社ばかりではなく故郷を活性化したいとの思いから、地元の経営者を集めての勉強会も開催。滋賀大学や京都大学と環境教育などを巡って共同研究を始めたほか、他業種との交流にも積極的だ。記者が訪れた日には、パナソニックの社員が研修に来ていた。

●固まっていない飴?

 東京・新宿伊勢丹の地下1階、副都心線の駅から近く、人通りが絶えない入り口の正面。「あめやえいたろう」の売り場を初めて見たときの衝撃は、いまでも鮮明だ。

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